2人の短いお話 その3

今年も ページ35

「アッアッアッ」





コタツに入りながら缶ビール片手に、テレビを見て楽しそうに笑う恋人の姿は、東京ドーム一杯の観客を沸かせるアイドルには決して見えない。

それでもその酔っ払った姿も、少し伸びた部屋着のスウェット姿も、愛しく思えるのはどうしてだろう。





「はい、これで最後だから」
「んー、えー？もう？」
「何本飲んだと思ってんの」
「じゃあ、焼酎にする」






そういう問題じゃない！

そう言いながら、北山の手から空き缶を受け取って、新たな冷えた缶ビールを渡すと、ありがとう、だなんて頰にキスをしてくる。

結局許してしまうから、俺も甘い。







「藤ヶ谷もコタツ入ってテレビ見ようよー」
「ん、これ洗ったら行く」






年が明けて束の間の正月休み。
金曜日の夕方にはラジオがあるから、2人揃って仕事始めだ。

近場の温泉に一泊二日で旅行でも行こうか、だなんて話していたけれど、結局家でゆっくり過ごすことになった。






「おじゃましまーす」
「ん、」






いや、別に北山だけのコタツじゃないんだけどね。

でも何だか俺が炬燵に入るなり、満足そうに笑うから、大人しく北山の左側に収まる。






「あれ、酒飲まねーの？」
「んー、悪酔いしそうだから良いかな」
「えー、飲めよー。
コタツと、面白いテレビと、美味いつまみと、そして藤ヶ谷と晩酌！最高なお正月にする為にはお前も飲め！」
「ええ…」





グイグイ、とビールを押し付けてくる北山に仕方なくそれを受け取って、一口だけ飲んだ。






「ぬはっ、どう？美味いじゃん？」
「はいはい、ありがと」






ビールが得意じゃない俺は、結局またコタツから出て、甘い酎ハイを手に取った。







「はい、乾杯」
「かんぱーい」







美味いつまみ、と言った俺が作った料理をつまみにビールを飲む姿も、愛しい。


ああ、今年も、北山が好きだ。

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