2人の短いお話 その3

刺激的な恋 ページ27

「北山ってさあどんな子がタイプなの？」



俺にそんな質問をぶつけて来たのは、珍しくシフトが被った藤ヶ谷だった。

昼間はカフェ、夜はバーとして営業しているこの店で、俺は早番として出勤しているが、藤ヶ谷はバーテンとして遅番で居ることがほとんどだ。


同じく遅番の横尾が電車が遅れて到着が遅れているため、来るまで伸びてほしい、と言われて残っている時、突然話し掛けられたのだった。

入れ替えのタイミングで挨拶程度にしか会話したことがない奴に、そんなこと聞くか？





「…それは、何で？」
「いや？別に、何となく。彼女とか居んのかな、って思っただけ」
「いねえよ、彼女なんか」
「ふうん、」





はあ？聞いておいてそのリアクションかよ。


興味を無くしたのか、藤ヶ谷はグラスを磨き始めた。

早番が着ている白シャツとは違って、黒のワイシャツの胸元を少しだけはだけさせている藤ヶ谷は、大学生とは思えない色気だし、藤ヶ谷目当てに来る女性客も多いらしい。


こいつ、モテるんだろうな…


ぼーっと藤ヶ谷を眺めていたせいで、手持ち無沙汰だった俺に気付くと、ふふ、と甘く微笑まれる。


ドキ。


…はあ？何だよこの変な胸騒ぎは。





「北山、オレンジ切っといてよ」
「あ、う、おう」






何？さっきの質問は結局何だったわけ？

俺の中でモヤモヤがずっと残りながら、オレンジを切っていると、また無言が続いた。




……だぁー！駄目だ。


1回気になると、ずっと気になって仕方がないタイプだ。
モヤモヤしたまま帰りたくない。

オレンジの皮を捨てがてら、藤ヶ谷の足元のゴミ箱に屈んだタイミングで、意を決して口を開いた。





「…俺のタイプは、俺のことが好きで好きで仕方ない子だよっ」
「…ふうん。北山第一主義みたいな子か」
「ワガママ言われるのは好きじゃない。振り回されるのも無理。予定とかちゃんと守ってくれる子が良い」
「亭主関白だな」





俺のこんな答えの何が面白いのか、藤ヶ谷は何だか楽しそうだ。

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