春 ページ31
春ほど、生き辛い季節は無い。
色んなところで新しい匂いがする。
世界が新しく生まれ変わったことを歓んでいるようだ。
_____
「藤ヶ谷」
急に話し掛けられて顔をあげると、そこには見慣れた上司と、得たいの知れないスーツ姿の小柄な男がいた。
「は、はい。何でしょう」
眼鏡を直しながら、声を絞り出すと、上司はジロリ、といつもの不快そうな物を見る目でこちらを見た。
「新入社員の北山だ。この部署の配属になった。教育係は藤ヶ谷の担当だ」
「えっ、あっ、はい？えっ？僕ですか？」
「ああ」
「な、え、あ。そんな僕に教育係なんて向いてないです、で、出来ません」
出来ません。
本心から出た偽りの無い言葉は、上司を前にして、完全に雑音のなかに消えてしまったようだった。
「一通り教えてやれ、分かったな」
「・・・は、はい」
上司が自分のデスクに戻っていく後ろ姿を、恨みがましい目で見送り、ふと目を横に向けると、人懐っこそうな笑みを浮かべた男がこちらに笑いかけてきた。
「北山です、宜しくお願いします！」
「ふ、藤ヶ谷です。」
____
「あ、そ、そこはこうして、ここの発注かけて・・・」
「はい」
スラスラと要領良くこなしていく北山くんは、一体何が出来ないんだろう。
入社してもう５年目になる春。こちらは昼食を食べるような仲の同僚もいない。
なのに、入社して5日目の北山くんは、親しげに部署の人と昼食に出掛けた。
完全にヒエラルキーにおける違う階級の人物だ。
卵焼きを頬張ると、どうやら今日は上手い焼き加減だったようで、いつもより美味しく感じる。
そんな些細なことで自分の世界は幸せになるし、更に今日は愛読作家の新作の発売日だから、楽しみに溢れている。
「ガヤさあーん」
「あ、うん、いるよ。どうしたの」
咀嚼を済ませて、声の主の方向を向くと、眼鏡をひょいっと奪われた。
「み、見えない、見えないよ」
物覚え付いた頃から眼鏡を掛けている人生だった。眼鏡が無かったら、今目の前で声を発している人物さえも判別が付かない。
「あは、ごめんごめん」
声の主は満足したようで、眼鏡をスッと掛けると、自分のぼやけていた世界が急に明瞭に広がった。
その世界の中心にいたのは、随分と顔立ちが整った爽やかな色白の男だった。
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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が１番好きで、何度も読み返しています！！あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください！ (2019年10月13日 1時) (
レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)！ 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです！コメントありがとうございました！ (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます！私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです！ありがとうございます！ (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます！お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ；∀；)！春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください！ (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：魚
| 作成日時：2018年4月16日 21時
