2 ページ32
「またひとりでご飯食べてるの?」
「うん」
「休憩時間一緒だったらなあ。ガヤさんとお昼食べるんだけど」
「玉森のところは、忙しいからね」
隣の椅子に座っているだけでも、その足の長さが際立つ玉森は、海外との商談を担当する部署だから、昼休憩の時間が随分と変動的だ。
「今晩、空いてる?」
「暇だよ」
「じゃ、夕飯一緒に食べよ。いつもの本屋で待ってて」
「分かった」
「ありがと、じゃあね」
去り際に、コトン、と机の上に置かれたのは付箋が貼られた缶コーヒーだった。
『 教育係、ふぁいと 』
走り書きで書かれたそのメッセージに、また自分の世界は温かくなったようだ。
____
「藤ヶ谷さん。
今日、北山くんの歓迎会なんですけど、来ます?」
その聞き方はどういう意味を含んでいるんだろう。
もしそれが「来れます?」なら来て欲しいという気持ちが含まれている。
「来ます?」は、どうせ来ないは分かるけど、形式上誘ってみました、という行間が隠されているような気がする。
それならいっそ、「来ませんよね?」と単刀直入に聞いてくれた方が、こちらとしても潔く肯定するのに。
「あ、僕は、すみません、ちょっと用事が」
「はーい、分かりました」
団体予約はしているだろうから、もっと前から話は決まっていただろうに、こんな退勤直後に誘うくらいだから、きっとそういうことだ。
無理しない。
自分で、自分の世界を苦しめることはしない。
同僚たちがゾロゾロと集団で出ていくのを、ゆっくりと片付けしながら見送っていると、飲み会の主役となるであろう北山くんが、こちらに向かってきた。
「あの、今日ありがとうございました。僕、不器用なので色々迷惑掛けると思うんですが、明日からも宜しくお願いします」
「え、そ、そんなことないよ」
出来すぎた人間過ぎて、眩しい。
北山くんは、最後に軽くこちらに会釈をして、出ていった。
眩しい。
そんな例えがぴったりだ。
早く本を迎えに行こう。
自分の世界は、あまり陽向に向いていないのを、よく知っている。
____
679人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:魚 | 作成日時:2018年4月16日 21時