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「・・・終わったあ」
背伸びをすると、ゴギゴギと体の骨が軋んだ。
時計の針は既に深夜2時になるところだ。
「お疲れ。ほら」
「え・・・」
俺より10分程早く終え、煙草を吸いに行っていた北山が帰って来た。
俺に渡そうと手にしていたのは「とろけるような甘さ」と印字されたカフェラテだった。北山本人が口にしているのはブラックコーヒーである。
「お前、甘いの好きなんじゃないっけ」
いつまでも固まって受け取らない俺に、北山はさも俺が甘党であることが当たり前かのように尋ねてきた。
「そ、うだけど。
ありがと」
「おう」
プルタブを引いて、口に含むと、甘さが全身に広がり、気がゆるんだのか、一気に体に疲れが襲ってきた。
「さすがに疲れたな」
そう言って声をかけてくる北山は、ちっともそんな風には見えない。少し目の下に隈は出来ているが、これからもう一仕事出来そうな余裕がある。
俺はカフェラテの代金を支払おうと、鞄の中の財布に手をかけた。
数年前のクリスマスに、彼女から貰った財布に。
「金、払う」
小銭を取り出し差し出すと、北山は受け取らず、デスクの片付けを始めた。
「いーよ、別に。
それより早く帰り支度しろよ。朝になる」
「・・・」
忘れていたつもりだったけれど、
こいつ、本当に俺の事を送るつもりなのだろうか。
怪しさでじっとしていると、北山が片付けを終え、更衣室からコートを取り出して来て、本格的に帰り支度を始めた。
「置いてくよ?」
コートに袖を通してこちらを睨んで来たので、俺は急いで立ち上がって準備を始めた。
「・・・変なとこで降ろすんじゃねえぞ」
「はいはい、お前のその減らず口は聞き飽きました。タクシー代も朝帰りも免れたくせに罰当たりな奴め」
「・・・」
くそ、調子が狂う。
こんなんならタクシーを呼んだ方がましかと考えたが、マンションまでタクシーを使うと、この給料日前かつボーナス前の俺に痛い出費である。
元々は彼女の職場が近いから、とそこで同棲していたはずなのに、今では毎朝、満員電車に耐えて通勤するだけの苦痛な立地でしかない。
「は?お前んち、遠すぎ」
「・・・悪いかよ」
「お前のこと送ったら、俺が家につくの何時だよ。ふざけんな」
北山の車に乗り込んだのは良いものの、やはり俺のマンションまでは遠く、しかも北山の家がある所と正反対の場所にあった。
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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:魚 | 作成日時:2018年4月16日 21時