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「頼む、笑い飛ばしてくれ。お前なんかに同情されたら俺は生涯孤独の身で終わる呪いにかかる気がする」
向かいのデスクに座る男に目をやると、話を聞いていないのか、カチャカチャと無機質なタイプ音だけがフロアに鳴り響いていた。
「聞いておいて無視かよ!お前の聴力どうかしてんじゃねえの!」
「俺の聴力は至極健全だ。
どうかしてるとするなら、お前の方だ。
終電を逃したお前をわざわざ送っていこうか?、と声をかけようとしている優れた人格の持ち主の俺に、文才の欠片もないその頭で生み出された貧しい言葉をぶつけるお前の心の方がどうかしてるわ」
「クリスマス返上して残業してやってるような聖人君子のように心優しい男のどこにそんな邪悪な心があると思ってんだ」
・・・ん?
「俺の耳は一般男性の聴力を兼ね備えてると自負しているけど、一応念のために聞いておくわ。
お前今、送るって言ったか?」
「うっせえな、そーだよ」
「誰を?」
「お前を」
「誰が?」
「俺がっ」
「何処に?」
「・・・うっせえな!!!!
いいから早く仕事しやがれ!!俺に送られて帰るのと、クリスマスの朝にクタクタになって退勤するところ見られて、下の階の可愛い女性社員に哀れみの目で見られるのどっちが良いんだ!!」
一気に捲し立てた後は沈黙である。
この男、一体何を考えているんだ?
残業のし過ぎでついに頭がおかしくなった?
この男の名前は、北山。俺の2つ上の32歳。
8年前に立ち上げられたばかりのここの会社は、所謂ベンチャー企業というもので、少数精鋭で成り立っている。
そんな会社だから、北山のようにヘッドハンティングされてやって来る強者も少なくはない。
けれど、北山の作るプログラムは、会社のなかでも群を抜いて優れていた。今では、北山を指名して発注してくる大手企業も幾つか存在する。
北山が入社する前まで、トップの営業成績を残していた俺は、意図も簡単に2番手にコロリと降格した。
それ以来というものの、俺と北山は犬と猿、水と油、一歩も歩み寄れない関係になった。
しかし、仕事の点では、やはり北山より仕事が出来る奴はいない。
大きな依頼であればあるほど、北山とチームを組んで、取り組まされる。それが素晴らしいと評価されると、また俺はこいつとデスクを向かい合わせに、罵詈雑言浴びせながら、キーボードをタイプさせる日々が続くのである。
はて、どうしたものか。
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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:魚 | 作成日時:2018年4月16日 21時