2人の短いお話 その8

差し入れ ページ44

見学エピから


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藤ヶ谷のミュージカルを観に行く事になった。

舞台の稽古が始まるまでの僅かな夏休み。
宮田にちょうど誘われ、マネージャーにチケットを頼んだ。

次の日が休演日だと気付いたのは、マネージャーから返事をもらった時だった。これは本当だ。わざとじゃない。







「北やん、ガヤさんに観に行くって連絡した？」
「んえ……してねえけど」
「あ、本当？俺もすっかり忘れててしてなくてさあ」






赤坂に向かう車の中でそんなことを言われてももう遅い。しかし運転するマネージャーが、他のメンバーの分も関係者席を用意する時に、日にちは全て伝えた、と言ってきた。


……わざわざいつの公演にメンバーが来る、だなんて把握しているだろうか。

もし覚えていたら素っ気ないと思われたかも。
でも、変に気負われても困るし。
まあ俺が連絡したところで気負わねえか。







「おーい、北やん、もう少しで着くって」
「あ、おう」







変に気負ってしまったのは何故か俺の方で、関係者入り口に停められた車から急いで降りた。





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そのまま客席に通されるかと思ったけれど、少し早めに着いたので控え室に案内された。扉を開けると、そこには見慣れぬ明るい茶髪の後ろ姿があった。

扉を開けた後に勢いよくその茶髪頭が振り返って、目が合う。







「わ！お疲れ様です！」
「おお〜シメかあ、誰かと思ったよ」






……もしかして、わざと？


その人物が、藤ヶ谷のお気に入りの後輩で、最近よく名前を聞く人物だとわかった時、一瞬眉間に皺を寄せてしまった。

宮田はニコニコ、と後輩と会話をしているけれど、俺はあいにく無愛想な挨拶しか出来なかった。




ふん。
何だよ。






何となくやり場のない苛立ちに襲われる。







「ガヤさんのミュージカル楽しみだね〜」
「はい！昨日連絡したんですけど、楽しみにしてて、って言われて。早く着き過ぎちゃいました」







羨ましい。
こんなにもストレートに感情を表現出来る事が。

俺も連絡しとけば良かった。





何となく会話に参加するのも憚られて、スマホの電源を落とそうとスマホを開くと、まさかの人物からメッセージが入っていて思わず声を出しそうになる。






「……っ」







Taisuke俺の家で待ってて






送信されたのはつい数分前。

幕が開く直前に打たれたメッセージに一瞬にして心が溶かされた。

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