2人の短いお話 その8

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「じゃあな、……気を付けて帰れよ」







河合に半ば無理やり乗せられたタクシーから、外を見ると、広告にでかでかと貼られている玉森と目が合った。



なあ。
お前は、まだあいつと居るのか？






______






部屋に着くと、汗ばむシャツが気持ち悪くて、鞄を適当に投げてそのままシャワーを浴びる。







「……っ」








ガヤくん、ガヤさん、

スマホに確かに表示されていたその愛称は間違いなくあいつの事だろう。

ぽた、ぽた、と髪から垂れていく水滴を追いながら、まるで忘れられていない自分に吐き気が催す。


リビングに戻り、もう自分には関係の無い事だと分かっているのに、スマホを操作する手を止める事はできなかった。



【玉森 スタイリスト】と検索してしまえは、すぐに俺が焦がれていた人物は姿を現した。

1番上にあるネット記事をタップする。




『 最前線を走るモデル、玉森の掲載されている雑誌には全て「スタイリスト / 藤ヶ谷 太輔」の文字が印字されている。


彼こそ、昨今の玉森のめざましい活躍の立役者であると言っても過言ではない。


デビュー当時から玉森の専属スタイリストとして絶対的な信頼を置かれている彼だが、玉森にも引けを取らない容姿の持ち主である事は、知る人ぞ知る事実である。


幾度と無く玉森が専属モデルを務める雑誌で特集を組もうとしたが、頑なに彼は表舞台には出て来ようとしなかった。


玉森が光り輝くランウェイの真ん中を歩き、彼はそれを影から支える。


今後も2人の活躍に注目したい。 』






そしてその記事に掲載されている一枚の写真には、玉森が服を当てられている何気ない風景が写っていた。しかし、その服を当てているその後ろ姿は、藤ヶ谷だった。



このネット記事は肯定的に2人のことを書いていたが、それ以外にも勿論色んな記事があった。


『 玉森と藤ヶ谷は恋人関係にあり、都内の高級マンションで同棲をしている。 』



それはファンの間ではどうやら有名な話らしい。

玉森が身につけているハイブランドの指輪やネックレスはどうやら藤ヶ谷とお揃いで、藤ヶ谷の誕生日の日はどんな仕事も休みを取るらしい。


……何でそんな事、知ってんだよ。








「……別に、関係ねえ事だし」








履歴に残るのが嫌で、わざわざ閲覧履歴も検索履歴も消去してスマホをベットに投げた。







「ふ、じがや」







久しぶりに口にしたその名前に、また吐き気がする。

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