2人の短いお話 その8

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「北やんー！！！」
「おー、ミツ、真っ黒〜！」





誰にも出国の日を伝えずに旅立ったため、帰国する際は必ず教えるようにと耳にタコが出来るくらい言われた。そして、接点が無かったはずの宮田と二階堂が空港で俺を待ち構えていた。俺が不在だった1年間、ヘルプで何度か二階堂が店に来てくれたそうで、そこで親睦を深めたらしい。

空港に出迎えられたその足で居酒屋に連行される。





「はー、疲れた…」
「おかえりなさーい！はいかんぱーい！！」
「お前ら…時差ボケの俺を労わるとかねえのかよ」
「えー、日本食恋しいでしょ？」
「あっちの寮で割と食ってたわ」






超ハイテンションな2人とグラスをぶつけ、疲労が蓄積されている体にビールを流し込んだ。

うん、まあ、上手い。
枝豆、豆腐、エイヒレ炙り。うん、上手い。






「北やん、まーじで日本のこと何も見て無かった？」
「全部アカウント消してたからな。何も知らねえ」
「じゃあ、これ知らない？」





何杯目かのビールを口にしていた俺は、宮田が突き出してきたスマホの画面を見て、目の前に座っていた二階堂に届く勢いで吹き出した。





「きったな！ちょ、ミツ最悪ー！」
「は？そ、それって」






二階堂がおしぼりで必死に自分の服を拭きながら、同じように宮田に画面を見せられると、ああ、と納得したような声を出した。







「そうそう、玉森。今、モデルやってんの」
「も、モデル…！？」






そこに写っていたのは、ある洗剤ブランドの広告で、そしてその中心に映っていたのは紛れもなくかつての同僚である玉森だった。ぱちぱち、と瞬きを繰り返すと、宮田が得意げに話し始めた。





「俺と一緒に表参道で買い物してる時にさあ、スナップ写真1枚良いですか、って声掛けられたんだよ！そしたら口コミで広まって、SNSで超バズっちゃって。あ、俺じゃなくてタマがね。それで一気に専属モデルになって、表紙まで飾っちゃってさあ。

これはこの前起用された洗剤ブランドのタマ！超お洒落だよねえ」






何でお前がそんなに嬉しそうなんだ。
そう突っ込みたいところは山々だけれど、二階堂はこの話100回聞いた、とどうでも良さげだ。






「…へえ、すげえな」





もっと言いたいことはあるはずなのに、すべて飲み込むようにビールを煽った。




1番知りたかった人物の近況を知るのは、それから数年後の事だった。

それなら吐き出してしまえば→←・

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