2人の短いお話 その7

逃げた君の弱さ ページ17

"何度ここへ来てたって 大阪弁は上手になれへんし"
"楽しそうにしてたって あなた以外に連れはおれへんのよ"








大阪行きの新幹線に乗りながら、イヤホンからこの曲が流れて来た。

北山に会いに大阪に行く時のテーマソング。

プレイリストにこの曲を5曲ほど登録しているので、シャッフルしている曲の中でも流れてくる確率は高い。







「はあ………」







窓ガラスに映る自分の顔が、いつもより元気が無いのはきっと昨夜の電話のせいだ。自分で言ってしまった発言なのに、自分の女々しさに嫌気がさして何度もため息を吐いてしまう。

北山にとって、大倉さんが恋愛対象外であることは重々承知しているつもりだ。

それでも泊まりに行けば、嫌でも目に入る食器や服、靴、大倉さんが好きそうな置物、箸、歯ブラシ……

それを見て、嫉妬する俺がおかしいのだろうか？男と付き合っているのだから、大倉さんだって恋愛対象だろう。



"俺にとって忠くんは親みたいなものなの。"




あの町から逃げた北山が救いを求めたのが、母親の従兄弟である大倉さんだった。10年ぶりに会った北山は、町での思い出なんか無かったかのような口調で、そして何かを吹っ切れたような顔つきだった。


俺が埋められなかった10年を、大倉さんが埋めてくれた。


分かってる。
分かってるんだ。
高校生の俺には、北山の傷を癒す事は出来なかったし、引き止める術もなかったことくらい。




"家族だから、恋愛対象じゃねえって"




北山がそう俺に言ってきた時、コレが電話越して良かったと心底思った。

そうじゃなかったらコップの水をぶっ掛けていたかもしれないし、家を飛び出していたかも知れない。

……なんて面倒くさいんだ、俺は。





"じゃあ、俺と北山は、家族になれないのかな"




精一杯の強がりで、そう吐き捨てた。
北山の返事も待たずに電話を切ってしまってから、部屋で心底後悔に襲われた。


北山にとって、家族、は大倉さんしか居ないんだろう。



じゃあ俺は？







「次は大阪、大阪ー」






……ああ、北山にどんな顔で会えば良いんだろう。

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