2人の短いお話 その6

君が妬いた日 ページ7

『もしもし、北山ー？今、後輩とご飯食べてるんだけど来ない？』






そう薮から誘われたら行くしかない。

てか後輩って誰だろ？

そう思いつつも別に改めて聞きなおす事でも無いか、と運転をしているマネージャーに、家ではなく、薮から告げられた店に行くように頼んだ。





「ええ？今からですか？！」
「あ、無理？だったら降りてタクシー捕まえるわ」
「こんな繁華街で降りたら一発でバレます、やめて下さい。もー！もう少し早く言ってくださいよぉ〜」





別に大丈夫だって…、と言いたいところだけれど、素直にお叱りを受け入れた。そしてマネージャーが行き先を変更してくれるのを見て、あるトーク画面をタップした。





『飯行ってくる。』





それだけ打ち込んでスマホをしまおうとしたけれど、ふと思い立って新たなメッセージを打ち込んだ。






『ラジオおめでとう』







ドラマ撮影の合間にレコーディングをしたりと、どうやらかなり忙しいみたいだ。

会いたい、なんて言ってしまえば、きっと困らせてしまうだろうから、言わないけれど。





_____







「わ！北山くん！？お疲れ様です！」
「あ…お疲れ様」






指定された店に着き案内されると、そこには呑気に飯を頬張る薮と、俺が来る事を知らされていなかったであろう慌てる後輩がいた。


あ、そうだ。
今、舞台稽古中だもんな。


薮と舞台で共演する後輩は、偶然にもアイツと最近仲の良い子で、よくその名前を聞かされていた。






「すみません、俺、お邪魔でしたか？」
「全然、むしろお邪魔虫はコッチ」
「はあ？お前が呼んだんだろうが」
「あはは、そうだったねー」






薮の隣に座り、適当にメニューを見て注文をした。

気を遣って居住まいを正し続ける後輩に、楽に座って良いよ、と声をかけるも軽く礼を言われるだけで、その綺麗な姿勢のまま食事を続けていた。


あー、アイツが好きそう。


男らしく格好良い、というよりかは全体的に子犬のような感じで、この大きな黒目で見つめられたらそりゃ可愛がりたくなるのも分かる。

グイグイ先輩に絡みに行く！のではなく、礼儀をわきまえながら積極的に会話に参加する辺り。人見知りなアイツの激セマなストライクゾーンに見事に入り込んだのだろう。








「で？舞台どんな感じよ？」
「楽しいよ、雰囲気も良い感じだしね。ね？」
「はい！薮くん見て勉強させて貰ってます」
「お前今のは言わせただろ」
「いやそんな事ないから！」

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