2人の短いお話 その6

世界で1番の愛を ページ40

2人の短いお話第１弾の『元彼氏/高嶺の花』から
Ki(♂)×F(♀)


＿＿



「あ、北山。こっちこっち。」
「お、おう…」





気まずい。
気まず過ぎる。



俺が決して行かないような洒落た雰囲気があるこのバーに呼び出されたのは数十分前の事だ。


“友達と飲んでるからバイト終わったら迎えに来て”

というかなり一方的なメッセージと店のURLを、どうにか見なかった事に出来ないものか。

何とか上手い口実を考えたけれど、考えるだけ時間の無駄だ。バイト後くたくたになった体に鞭を打って店までやって来たのだった。



バイトに行く為だけの適当な格好の俺が美女2人のテーブルに近付くと、店内の男性客の「何でお前が？」という視線が突き刺さるようだった。その視線も気まずいことは勿論、恋人の友人に品定めされるように先ほどからじっと見つめられていて気まずいったらありゃしない。






「この子はタマ。よく話してるから知ってるよね？」
「あ、うん。北山です」
「どうも、玉森です」






薄暗い店内でも、玉森さんの肌は発光するように白くて、ミニスカートから伸びた足がやたらと綺麗だ。

しかしそんな美女に、先ほどから何故か凝視されている俺。

そんな蛇に睨まれた蛙状態の俺に気付いていないのか、俺を呼びだした本人は気にせずグラスを傾けている。その視線から逃げるように出されたお冷をチビチビ飲んでいると、玉森さんはようやく口を開いた。







「ガヤさあ」
「うん？」
「何で北山くんと付き合ってるの？」
「え？」
「は？」






藤ヶ谷と俺の驚きの声が重なった。

ぱちぱち、と藤ヶ谷の長い睫毛が瞬きを繰り返し玉森さんを見つめ返しているけれど、玉森さんは顔色を変えることなく、俺の事を指さしてきた。





「北山くんのどこが良いの？」
「ええ…ちょ、失礼じゃないっすか」
「気分悪くしたらごめんなさい。でも気になるんです。ガヤがここまで長続きしてて、ぞっこんな人って今まで居なかったから」






…ん？俺、けなされてる？褒められてる？

少しだけ芽生えた怒りの感情が瞬く間に鎮火されてしまい、どうリアクションすれば良いか分からず藤ヶ谷を見ると、





「え…っと」
「…！？」





え゛！？
て、照れてる…っ？！
え、滅多にデレない藤ヶ谷が…！？このタイミングで照れてる…！？




今度は俺がぱちぱち、と藤ヶ谷を困惑の目で見ると、伏し目がちに見つめ返してくるものだから心臓がズッキューンと撃ち抜かれた音がした。

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