2人の短いお話 その6

・ ページ32

♪ー♪ー






こんな昼休みに電話を掛けてくるなんてどうせ母親からの頼まれ事だろう、と画面を確認すると、そこに表示されていた名前に思わず目を見開いた。

そして隣の女子たちの目を何となく避けるように小声で電話に出た。




「もしもし……」
『もしもしー？藤ヶ谷、今どこいんの？』
「学食だけど」
『あ、まじ？飯もう食い終わった？』
「いや、後半分くらい」
『おっけー、今から行くからちょっと待ってて』







いや、だからもう半分食い終わってんだって、と言い返そうとしたらもう電話は既に切られていた。再び横目で隣のテーブルを確認するが、まだ女子生徒たちが去る気配は無い。






「はあ……」






学食なんて来るんじゃなかった。








＿＿＿＿







「あれ、もう食い終わってんじゃーん」
「お前が来るのが遅いんだわ…」






電話を終えてから5分ほどしてから北山はいつものように制服を緩く着崩しながらやって来た。その肩にはカバンを携えていて、このままサボるのか、と非難めいた目で見てしまう。

そしてまさかの北山本人の登場に、隣の女子生徒たちが少し色めき立つのが分かった。







「藤ヶ谷何食ったの」
「日替わり」







ふーん、と聞いておきながら俺の前の席に腰を下ろした北山は、特に何かを注文しに行く素振りを見せない。






「何も食べないの？」
「あー、うん、調子悪くて保健室で寝てた」
「…そう」






てっきり誰かと校内で宜しくやってるのかと予想していた事に対して少し罪悪感を感じてしまう。確かにやつれた様にも見える北山に、飲んでいたお茶を差し出した。





「これ飲めば」
「おー、さんきゅ、ってめっちゃ飲みかけじゃん」
「別に良いだろ」






そうしてペットボトルを北山に押し付けると、困った様に笑いながらそれを受け取った。

隣の女子生徒たちの視線が先程からチラチラ、と感じられてちょっとだけ気まずいが、気付いていないフリして北山に話し掛ける。






「そのまま寝てれば良かったじゃん」
「寝てても治んねえな、って思って帰ろうと思って教室に荷物取りに行ったら、藤ヶ谷居なかったからさ。何となく帰る前に会いに来てみた」






いつもよりもどこか弱々しく見えるその笑顔に、胸の奥がキュ、と切ない音を立てた。

・→←君が欲しい人

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す