2人の短いお話 その6

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ピピピッ！ピピピッ！





「…はあっ、…はあ」






携帯のアラームが悪夢から俺を現実へと引き戻した。




シャツが冷や汗で背中に張り付いている。
荒い呼吸を整えて起き上がると、あの日と同じくらい眩しい夕陽が部屋をオレンジ色に照らしていた。



…あの日から夕陽がひどく嫌いになった。



あの衝撃の光景を目にした後、ただ一目散に逃げた。頭の中に鮮明に残ったあの光景を振り払うように、ただひたすら走って家に帰った。


まだ13歳の俺にとって、それはただただ衝撃で、おぞましいものでしかなかった。



今もあの光景が悪夢となって時折、甦る。


先輩の苦痛に歪んだ表情。
汗ばんだ肌と肌がぶつかり合う音。
生々しい臭い。



夕日を見ると、いつもあの空間に引き戻されるようで呼吸が苦しくなる。





＿＿＿







ああいう行為自体をきちんと知ったのは学校の保健の授業だった。

男女別の教室で受けさせられて、周りの男子たちはにやにや、と顔を見合わせていた。

ただ、男同士でもそういうことが出来る、と実際にこの目で見ていた俺は、その授業をどこか冷めた気持ちで聞いていた。





“藤ヶ谷くんって、他の男子に比べて、大人っぽいよね”





中学のある頃から、周りの女子にそう言われることが多くなった。誉め言葉なのだろうか。

人見知りというのもあったが、ただ下品な話で盛り上がる男子たちを、心の中で嘲笑していただけだったのに。


本当はもっと汚くて、歪んだ行為だ。
この目で俺は見た。漫画や映像でしか見たことがないお前らなんかとは、俺は違う。



そう優越感に浸っていた俺は、中学3年生になった時、その高みの見物から突然引きずり降ろされた。






「俺さ、この前、彼女とさ、初めてしたんだ」





その日は鍵閉め当番の日で、一緒に当番だった同期と2人で並んで歩いている時、突然告白された。そいつは俺よりも身長が低くて、ニキビが散らばっているような奴だった。



衝撃だった。
俺しか知らないはずだったのに。
俺しか知らない世界が、こいつに踏み入られた。

優越感がずるずると剥がれ落ちていくようだった。






「お前の彼女って、3組の子だよな」
「ああ、そうだよ？」






そして崩れ去った優越感の代わりに、俺の心を支配したのは、心の奥で隠れ潜んでいた征服欲だった。

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