修行先の印象は……? ページ30
「えっと……この建物、だよね?」
何度も地図を見直したし間違いはないはず。
「でもこんなでかい館だったなんて聞いてないよ……」
館は魔王城ほどではないにしろ明らかに学校より大きく、館というより要塞という表現の方が適切な気がする建物だった。でも、ここでぐだぐだしていても仕方ない。覚悟を決めて入ろう。
「えっと、こうかな?」
ドアノッカーだと思われるものを鳴らすと正面の門が開いて、一見人間と変わらない姿をした執事のような老人が出てきた。
「おや、この剣翁の館へお客様とは珍しい。どうなさいましたかな?」
「はじめまして。僕は雨野流真といいます。雨野が苗字で流真が名前です。魔王様に保護していただいた身分ですが、自衛の手段が欲しいので剣を習いたいと城の兵士の方に相談したところここを紹介されました。これが紹介状です。」
できる限り簡単に自己紹介をして、紹介状を手渡す。執事のような人は紹介状を受け取り中を一読すると、にっこりと微笑んで紹介状を懐にしまった。
「ようこそおいでくださいました。流真殿。はぐれ勇者、という単語には些か驚きましたが異世界人ということの方が興味深いですね。ですがまぁ、それは些細なこと。魔王城に勤める兵士のお墨付きとあらば私含め引退した爺共がみっちりと鍛えて差し上げますぞ。あぁ、申し遅れました。私はこの館に住む剣翁が一人、吸血鬼のバルトナーと申します。得意な剣は細剣を用いた速く正確な剣にございます。」
「よろしくお願いします。」
「ええ。こちらこそ。いやはや人間に。しかも勇者の称号を持つ者に剣術を指南するときが来ようとは。長生きはするものですな。ささ、こちらですぞ。」
バルトナーさんは饒舌に喋りながら恭しく一礼する。そして僕が慌てて礼を返すと、ニコニコとした表情のまま僕を案内し始めた。
「ひとまずは流真殿。貴方の寝泊まりする部屋を決めましょう。この屋敷は我々老骨共にはあまりにも広い。それ故持て余している部屋がかなりの数ございます。使用人達の部屋もこの屋敷内にあるのですが、それでも余っているのが現状でしてな。」
「はぁ。」
「ふむ……では荷物を持ったままにはなりますがこの屋敷を見て回り、それから使いたい部屋を決めるとしましょうか。」
その後バルトナーさんに案内されるまま見た屋敷の全体は、正面から見たもの以上だった。あまりの広大さに圧倒されている僕をバルトナーさんは楽しそうに眺めていた。
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作者名:めがねとかがみ | 作成日時:2020年9月15日 23時