前世なんて知ったこっちゃない【山崎退】

単位を取るか青春を取るか ページ4

あの後病院に押し込んで精神科を受診させたが結果は異常なしと言われたらしい
いやおかしいだろ絶対異常あるってばよ

この際もう信じて貰えなくてもいいから、と乞うこの人を見ていると、段々可哀想になってきたので1ヶ月飯を奢る条件付きで連絡先を交換してやった



「前世とやらの私はどんな感じだったの」

「見回りサボってゲームしてるような人でした」

それってダメじゃん、仕事中に何してんの前世の私
授業中にゲームはいいけど仕事中は流石に駄目だろ、よくクビにならなかったな。江戸時代ってそんなもんなの?


「困っている人がいたらほっとけないのは、今も昔も変わらないですね」

そう言い目を細める警官のお兄さんは本当にその前世とやらの私のことが好きなんだろうと思った




「アンタが恋した私はもういないよ」

「今のあなたにも恋してますよ」


私が冷たく突き放そうとすると、この人は余計距離を縮めてくる
考えていることがわかっているような、全てを見透かされている感覚に陥った



「前世なんて知ったこっちゃない、私は私だ。ってAさんなら思ってそうです」


図星で背中に冷や汗が伝うのを感じた
大して喋ったことの無いこの男は私を知っているような口ぶりで話を続けた

しかもそれがまるっきり私なのだ

手のひらで踊らされているような気の悪い感覚に耐えられなくなり、私は席を立った




「す、すみません急にこんな事一気に喋っても困りますよね」

「信じるよ、前世でアンタと私が恋人同士だったって話」


グラスに残った氷を口に注ぎ込み、そのまま鞄を背負って店を出た

向かい側の店のガラスに反射して、警官のお兄さんは私を見つめているのが見えた
その表情を気にする余裕は私にはなかったので、そのまま足早にバイト先にと向かった

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