前世なんて知ったこっちゃない【山崎退】

点と点 ページ20

前世の話を私の周りの人達は当たり前のように話しているので、もしかして何か大掛かりなドッキリなんじゃないかと思っていた。


しかし、この夢か現実か区別できないこの記憶が前世だと言うのならば私は身近にいる人たちの前世を知っている。


断片的にしか思い出せていないが、歴史の授業で習ったような格好をしている知り合い達、そして私の隣には山崎さんが居た。



そしてあの人が言った通り恋人同士だったようだ。
これでようやく話が繋がった




そして、気がついてしまったことがある。




あの人は私が好きで優しくしてくれていた。
けれど、その優しさに甘えて入り浸っていたのは私だ


山崎さんの好意を乱雑に扱うような私の今までの思考を思い出すと、ぶん殴りたくなる。


つぐつぐ嫌な人間だと




「...山崎さん、いますか？」




高熱でふわふわした中頑張ってまとめたこの考えを、伝えようとできる限りの声を振り絞るが
それは虚しく、私以外いない部屋に響いた。

それでも諦めずに名前を呼び続けるが、この小さな掠れた声がリビングまで届くわけもなく、


呼ぶのを辞めたと同時に、なんとも言えない空しさが心の中に満ちるのを感じた。


この気持ちはなんと言うのだろうか


ここに居ちゃいけない。なんて言ったら悲劇のヒロインらしくて笑えるが


あの人にとって、今の私は毒でしかない


一緒にいてメリットがない。
恋心を持ち合わせていない私を家に置いていても、あの人が今後愛を囁くようなことをしようと、此方からは何一つとして返ってこない。



これほど虚しい恋路はあろうか。



何をしても無駄なんだよ。と伝えなければ

前世を思い出したとしても、私は昔の私にはなれやしない。

そう伝えたら出て行けと叱責の1つや2つしてくれれば楽なのにな。

きっとあの人はそんな事言わない。いや、言えないの方が正しいのか

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