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「それに俺、大学違うから目が届かないじゃん?」
少し暗い雰囲気になってしまっていたことに気づいたのか、いきなり、にぱっ、と笑ってそんなことを言った。
「そういえば大学どこなんです……じゃなくて、どこなの?」
「山田たちのとこよりはほんの少し遠いとこかな。建築学科なの」
「へぇ」
そのあとも伊野ちゃんとお互いのことについて喋っていると、ようやく大ちゃんが戻ってきた。
「ごめーん、結構席外しちゃったね」
「遅いよ、大ちゃん」
「ごめんって。トイレ行ったあと、ちょっと店長に捕まっててさ」
「なにかあったの?」
俺が聞くと、大ちゃんは口角をあげて「じゃーん」と箱を俺らの前に出した。
「なぁに、これ」
「店長が友達来てるならってサービスしてくれた!持って帰っていいってよ、山田!」
「っえ」
「おー、良かったじゃん」
「中はケーキだって!」
はい、と渡されたその箱のサイズは少し大きく、3つ4つぐらいのケーキが入っている気がする。
「これ、一個じゃなくない?」
「あー、店長3つくらい詰めてたかも。家族で食べてよ」
「凄く嬉しいけど……」
気前の良い店長さんだな。
だけど、俺は一人暮らしをしている身なので一緒に食べる人なんていない。
「これ、良かったら今皆で食べない?俺、一人暮らしだし3つは多いから」
「え、そーなの?」
大ちゃんが驚いた顔をする。
「そういうことなら皆で食べようよ。俺、皿もらってくる」
そう言うと伊野ちゃんは席を立ってお店の奥へ行ってしまった。
「あ、ありがとう!伊野ちゃん!」
その背中に俺がお礼の言葉を述べると、大ちゃんは先程よりもびっくりした顔をした。
「……山田。伊野ちゃんと仲良くなったんだ」
「え?なんで?」
「“伊野ちゃん”って呼んでたから。伊野ちゃん、仲良い奴にしかその呼び方させないのに」
「そーなの?」
大ちゃんは口をとがらせ、むぅ、とした顔をしつつも凄く嬉しそうだった。
「へー、そっか。ふぅん、仲良くなったんだ」
「え、なになに、どうしたの」
「いーや?まぁ、なんていうか嬉しくてさ」
嬉しさと嫉妬心的なものが混ざっているのか、変な表情をしながらぶつぶつと言っている。
なんだかこっちも少し嬉しくなった。
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作者名:はらぺこ | 作成日時:2023年3月12日 22時