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「伊野尾さんは大ちゃんのことが凄く大事なんですね」
「うん、まぁ、ね」
伊野尾さんはソファにもたれかかって、んー、と伸びをする。
そして、ばっと起き上がったと思ったら「そうだ」と声を漏らした。
「あのさ、俺のこと伊野ちゃんって呼んでよ。敬語もなくしていいや」
「え、え？」
「ほら、呼んでみ？」
急かされてとりあえず言ってみる。
「い、伊野ちゃん……？」
「うん、いいね。敬語も外していいからね」
急になんだろうか。嫌な予感がする。
「さ、てことはまぁもう俺たちも友達になったわけだけど……。
俺のお願い聞いてくれる？」
ほーら的中。
何を考えてるか分かんないやつはこれだから。
そもそも、名前で呼んだら友達認定も意味が分からないのだが。
「お、お願いってなんですか？」
「ほら、敬語ぉ」
「……お願いって、な、なに？」
「うん、ふふ、えっとね」
悪戯な笑みを浮かべるその表情は、大ちゃんとは違った可愛さを持っていた。
「大ちゃんのこと、そばにいて守ってあげて」
その言葉は真剣そのものだった。
「ま、守る？」
「もちろん物理的にじゃないよ？ 精神的にっていうかさ。
大ちゃんがつらそうだな、って思ったときに助けになってあげて」
あの子は自分じゃ気づけないから、って付け加えた伊野ちゃんの顔はどこか悲しそうだった。
「それは伊野ちゃんが助けになればいいんじゃ……」
「もー、それじゃ駄目なんだよ。
………………大ちゃんには俺じゃ駄目なんだ……」
やっぱりまた悲しそうな顔をする伊野ちゃん。
二人の間にどんな過去があったのか。
それは分からないし、知りたいとも思わないけど、でもなんだか少しでも力になりたいと思ってしまった。
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作者名：はらぺこ | 作成日時：2023年3月12日 22時
