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にっこりと人のいい笑顔を私にも向けてくれた女性社員にお礼を言って、お土産だというお菓子をもらった。私の後ろを通り過ぎていったその人からふわりといい匂いがする。女性特有の甘い香り。
「お前にやるよ。」
『え』
「甘いものの気分じゃない。」
『…寮の誰かにあげればいいじゃないですか。』
「それでもいいけど、持って帰るの忘れそうだし。」
ほれ、と手のひらに置かれる私ももらった同じお菓子。……あの人、牧野さん。絶対茅ヶ崎さん狙いだと思うんだけど。私がもらってもいいのかな。ま、いっか。お菓子に罪はないし。そう思いながら、ありがたくもらうことにした。
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『あの、本当にしつこいんだけど…』
「Aが行くって言うまで電話し続けるから!」
『あのさぁ………』
「Aが気になるって人がいたら絶対協力するから!お願い!」
『……………』
こりゃ面倒なことになったな。お昼休み、再び先程の友人からの電話が。無視するのも悪いかなと思った良心で電話に出たのが間違いだった。
こんな面倒なことになるなら無視すればよかった。私が何を言っても全く折れる気のなさそうな友人。
『……わかったよ。』
「えっ、本当!?」
『うん。でも、今回限りにしてね。』
「うん!約束する!ほんっとにありがとう!」
私が折れるしかないのか…………。頼まれたら断れない性格に自分自身呆れて、ため息が出る。断る理由なんていくらでも思い付くのに。
まぁ、昔っからこの性格だし、今更変えられそうにもない。来るもの拒まずってわけではないんだけど、押しに弱いのはちゃんと自覚している。それなのに断れない私って…………。
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作者名:しあ | 作成日時:2019年6月27日 22時