第三幕『祈れどもあたたかな雨などなく』 ページ37
無様な二年間だった。
人の影に怯え、己に苛立ち、泥に溺れるように過ごした。日々が苦しかった。年月が痛かった。生きているのが辛かった。
なのに死にたくなくて必死だった。
呼吸の流派はすべて試した。どれか一つでも私の体に適していてくれたらいいと祈っていた。もしかしたら、と思って期待した。どれもこれも当たり前に以前ほどの力がでない。
耐えられない。認められない。受け入れられない。
もう、二度と、
……結局。私は鬼殺隊に戻ることを決意した。
ただの女として、虫のようにコソコソと、下らない企みを弄した。要は火事場泥棒だ。戦うことを求められぬ立場に甘んじ、けれどいつでも鬼を殺せるようにしたのである。
まるでハゲ鷹だと思う。こんなにも卑怯でみっともないことを考えられる自分が嫌だった。
屈辱だった。
守られる側でいることも、待つ者になることも。我慢がならない。血と砂埃の中にあってしか私は息ができない。
ハリボテの安寧に、未来など見たくはない。
冨岡や伊黒に弟の影を見る。ただ黒髪というだけで似ても似つかないのに、どうしてだろう。
……どうか、長く生きてはくれまいか、と言いそうになった。
煉獄や宇髄、悲鳴嶼は、私より随分大きいことに気がつく。昔は、私より少し上背があるというくらいにしか思っていなかった。
……どうか、無理に背負ってくれるな、と言いそうになった
甘露寺の髪に初めて触れる。刀を握ってすら甘やかな女に簪をさしてやると、驚くほどよく似合っていた。彼女はうれしそうに微笑んだ。
……どうか、よい相手と一緒になってはくれまいか、と言いそうになった。
不死川の傷がいやに目につく。私だって綺麗な体とはとても言えないのに、痛ましい、とさえ思う。
……どうか、もう血を流してくれるな、と言いそうになった。
胡蝶の姉を、時透の兄を、後先など考えず戦っていれば救えたのだと考える。私にはその力があったはずだった。
……どうか、許してくれ、と言いそうになった。
乞うことすらできない。
願うことしかできない。
……祈りのほかには、何もできない。
子どもの頃から何も変わらなかった。本当は、羨ましかった。ふつうに生きてみたかった。血と砂埃の中にあってずっと私は苦しかった。
はじめから諦めていれば楽だから、そういう風に思い込んだ。
今さら、こんなときに気づいた。
もう遅いのに。
罪深いこの腕に、抱けるものなんて何もないのにね。
あなたはいつも傷だらけ→←第二幕『願えどもやわらかな棘などなく』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 747人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (
レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……！ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……！！長文乱文等失礼しました。応援しております……！ (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………？夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(？)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - もう超大好き！！！となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……！？と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜！！！と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
