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第二幕『願えどもやわらかな棘などなく』 ページ36

 
 
 まともに眠れた夜などなかった。
 夜ごと、夢には両親と、弟が顔を見せた。あまりに酷い骸だったから、もう両親の生前の姿が思い出せず、それはまさしく悪夢であった。

 振り払うために鍛練へ没頭した。
 刀を振るう間だけ、私は息がしやすかった。


 ……せめて強くいることだけが、私の誠実さだった。



 より鋭く、速く、強い刃になるため、私は手段を厭わなかった。その一つが梵の呼吸であった。これは私が編み出した完全我流の呼吸法だ。型などではなく、そも呼吸の仕方が違う。

 一度、完全に体から酸素を出す。
 死人と同じ体にする(・・・・・・・・・)
 それから素早く大量に酸素を取り込むことで、細胞の活性化をより勢いづける。文字通り“爆発的な”身体能力を得る。理論としては簡単なことであった。

 体にかかる負担は、他の呼吸の比ではない。


 ──水に溺れたものは多くの場合後遺症を残す。
 これを低酸素脳症といい、成人であれば三から五分間呼吸ができなければ発症する。

 まったく同じように、私の体は蝕まれてゆく。



 「君の命は使い減らされてゆくよ」


 柱の位を賜った際、お館様がそう仰った。

 ……私は、他より焚き口の大きい汽車のようなものだった。
 多くを燃やし、誰も追い付けないまま走る。けれど積んであるのは他と同じだけの燃料だから、他より早く走れなくなる。
 そういうものだった。
 それでよかった。
 弱いまま生きていたくなどない。

 だって私は私を許せない。
 それはゆるやかな自死だった。

 人が人として立つための重さを、何もかもを、命さえ削って振るう刀は、どこまでも軽かった。
 恐ろしいものなど何もなかった。
 躊躇う理由など何もなかった。



 …………。


 二十三になっても、勇は見つからない。

 体の限界が近いのは、不調が出る前に気づいていた。
 ……今までのようにはできない。
 考えなしに、下らない正義感とか隣人愛だとかで、誰かを守ろうとして。有象無象の鬼などを相手していたら、私の体が駄目になるのが先だと理解する。


 だから私は、鬼殺の志から逃げた。
 結局こういう人間なのだな、とつくづく思った。

 多くの命を救うことを諦めた。
 ひとつの後悔を殺すことを取った。
 いまだ戦える身でありながら前線を退いた。
 年若い後輩たちにすべてを押し付けた。


 私は、延命のために様々なことを模索した。




 

第三幕『祈れどもあたたかな雨などなく』→←第一幕『自己犠牲は罪なりや?』



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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