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第一幕『自己犠牲は罪なりや?』 ページ35

 
 
 私と弟、母と父。
 それが私たち、家族でありました。


 遡れば高名な武士の家系です。私は病弱な弟に代わり、家督を継ぐために厳しく育てられました。何でも器用に熟すものですから、幼い時分、勉強や稽古ごとを苦に思ったことはございません。褒められることが好きでした。

 弟の名前は、勇、と言います。

 名前に反して、とても臆病な子でした。
 いつも私の後ろにいて、私が枝などで虫など追っ払うたび、姉さんは天下一の剣士様でございますね、と言うような、ちょっぴりマヌケな子どもでした。
 けれどやさしい子でした。


 母は、……立派な人でした。父は入り婿です。家業にしても何にしても、母が家を守っていました。
 自分にも他人にも厳しい人でした。
 私を強く育ててくれようとするその厳しさが、愛情であることは、分かっていました。信じていました。けれど日々を過ごすうち、それを耐え難い苦痛のように感じてしまったのです。

 だって私も、友だちと遊んでみたかった。
 人に甘えたかったし、誰かを頼りたかったし、ワガママを受け入れてほしかった。


「強くたって、弱くたって、姉さんは姉さんですよ」


 ……弟だけでした。勇だけが、私が弱くいることを許してくれました。マメやタコのできた私の手を撫でて、だいじょうぶですよと、言ってくれるのでした。
 そうしてそれが、決して僕だけではないのですよと、信じてくれていました。

 私のことを──私のような人間の、そうでなくとも忌避すべき弱さを、愛する誰かがいるのだと。
 慰めでも嬉しいと思いました。
 やっぱりちょっとマヌケな子だなぁと思いながら、ありがとう、と頬に笑顔が溢れたものです。



「勇はいつだって姉さんのしあわせを願っております」


 


 そんな弟を見捨てた私の、なんと罪深いことでしょう。









 ──潰れて、裂かれて、ぐちゃぐちゃになった両親


 暗くて狭い押し入れ

 浅い呼吸

 埃と血の臭い

 隣で震える、おとうと



突き飛ばされる幼い体

待って、と悲鳴が聞こえる

走り出す私___










 ……数日後。私は鬼殺隊の方に保護され、家に戻りました。両親だけがいました。ウジの湧いた大人の遺骸だけがあって、弟はどこにもいませんでした。
 検死の結果。父と母の身体には、……小さな子どもの歯で、食いちぎられた跡が、あったそうです。


 ぜんぶ私のせいですね。
 私が弱いせいです。
 

 あーあ。

 バカみたい。

第二幕『願えどもやわらかな棘などなく』→←ゝ



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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