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 梵柱が稽古をつけるとなると、野次馬は自然集まった。怖いもの見たさもあったはずだ。
 けれどまさかここまでとは、誰一人思わなかったろう。
 彼らは悲鳴を上げまいと必死のようだった。顔面蒼白で、足がすくんで動けないらしい。目を逸らせないでいる。

 水溜まりに倒れ付した。それは俺の汗だった。ブザマに転がる俺の横腹を、しかし四月一日さんの刀の鞘は容赦なく打ち付けた。

「弱すぎる」

 空気を裂く音がする。背中に激痛が走る。また打たれた、と理解するのにもう時間はいらない。ぼろ雑巾の俺を打ち付ける手は緩まない。
 肉と骨の軋む音が響く。
 こんなに人がいるのに静まり返っている。

 クソ、と麻痺した頭で吐き捨てる。
 あんたに比べたら、なんだってそう見えるだろ。

 立ち上がろうと踏ん張った手足をすかさず払われる。べちゃっと倒れ込んだ俺を、あの人が見下ろしている。
 その視線には頭を押さえつけられるような感覚さえあった。

「この体たらくでよくもまぁ、吠えたものだ」
「う、……グ。おえっ」
「眠らねばならない、食わねばならない、休まねばならない。なるほどそれは人の弱味であろうよ」
「……ッから!……だから、……ゲホッ。そう言ってン、だろォ」
「ではどう(・・)する」
「それも、言ったァ」

 知りてェんだよ。
 なァ、あんた鬼殺隊最強なんだろ。教えてくれ。寝る時間さえ惜しいんだ。一匹でも鬼を殺せる方法を──

「鬼にでもなるか」

 ──……

「……は?」
「アレらはまさしくお前の言うところだ」

 そんなわけがない。

 ……言いたいのに、声が出ない。それは疲れのためではなかった。痛みのためではなかった。
 想像して息を飲んでいた。
 眠らずに、休まずに。夜をさ迷い、ただ殺すために生きるそれは、まるで……

「人を人たらしめるは営みだ」

 ハッと顔を上げる拍子に涙がこぼれる。
 歪んだ視界で、あの人の瞳はまっすぐ俺にぶつかった。

「鬼ではないから人なのではない。人であるから人なのだ。日の光を浴び、食事を取り、夜には眠り、……人を愛するがために、人なのだ」

 その言葉がストンと胸に落ちる。

 ああそうだ。俺は、憎いからじゃない。殺したいから、戦ったんじゃない。俺はただ玄弥を、弟を守りたくて、ずっと……

 
 そのあと喰らった一撃で鎖骨を折られた。全治一ヶ月。その間嫌でもよく食ってよく寝てをしなければならなくなったため、美しい思い出、とはいかないが。
 まあ、忘れがたい出来事ではあらァな。

 などと、障子に垂直に頭を刺しながら思い出していた。


 

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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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