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 しのぶに振り下ろされた腕を煉獄が切り落とす。滑り込んだ甘露寺がしのぶを抱き止め、涙をにじませた。
 キュッと唇を噛む。

 年下の、こんな小さなしのぶちゃんが言ったのだ。
 私だって伝えないと、今、この気持ちを!

「Aさんっ!」

 情けない。声が震える。

「わた、私っ!私!みんなみたいにっ、立派な理由で鬼殺隊に入ったわけじゃないけどっ!」

 甘露寺は、普通に愛されて育って、今でも家族に会えて、結婚だってしたいと思っている。力が強くて大食らいなだけの女の子だ。
 だからこそ知っている。

「怖いのは、当たり前だって分かります!」

 怪我をすることも、死ぬことも、怖い。
 むつかしい。柱にまでなって、けれどそう思う。命をかけて戦うことの、なんて難しいことだろう。

「なにも、おかしくなんてないわ。辛くて悲しくて、逃げたいときがあったって、責められることなんてなんにもないっ」

 Aだって、きっとそうだ。

 鬼を狩るために産まれてきたはずがない。
 血を流して、涙を堪えて、苦しみながら戦うふつうの人だ。


「……阿婆擦れどもが、姦しいな」
「下がれ甘露寺!」
「させるかよッ」

 いつの間にか、互いの姿が見えていた。

 これは勇の不手際だった。余裕がなくなって、血鬼術の精度が落ちている。それを分かっているから宇髄は挑発的に笑った。
 煉獄は快活に笑い、教え子の啖呵に感心している。

「甘露寺の言う通りだ!」
「よォ弟くん。図星つかれて焦んなよ」

 声を張る。
 遠くあの人に、届くように。

「救えた命とこぼれた命、背負うべきであれ天秤にかけるものではない!」
「留守も任せられねー俺たちがどうしようもねえってだけの話だろ」


 これはただのエゴだ。

 誰かの傷を否定する愚かしさを知っていて、けれど誰も諦められない。恥ずかしい、なんて、思ってほしくないのだ。
 だってこんなに大切に思っている。


「後輩にここまで言わせといて、応えねえような無様を晒すなよ!A!」




 ──鉄扉が爆発した。

 ……と、思えば。そこにはAがいた。抜き身の刀を持って、俯きがちに。切り刻まれた鉄クズがガラガラと崩れたのを踏みしめて、立っている。

「……前のようには、やれないかもしれない」

 それでもいいか、と呟いた。
 声は、ひどく小さく、震えていた。

「やるしかなかろう!」


 いつかの言葉を、叩き返される。
 その重みがおかしくて、Aはつい、笑ってしまっていた。

あなたの旅路に幸多からんことを→←ゝ



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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