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「……ああ」

 ──Aが不機嫌そうに吐き捨てるのを、けれど誰も聞いていなかった。もはや意識の外である。だって彼女は、──


忘れていた(・・・・・)


 ごう、と風が唸った。
 周りの景色が歪む。
 吹き出た汗は輪郭を伝い、肩へと垂れる。

 ……汗?

 汗を、かいていた。じっとりと湿る肌が風に吹かれる。風?風など、吹いていなかった。静かな夜だった。ではなにが。
 眼前にそのかんばせが来て初めて、認識する。
 突風のように女が接近していた。飛び退き、深く息を吐く。呼吸を再開させる。……先刻まで、呼吸をすることさえ忘れていた。こんなにも無意識に息が詰まっていた。

 目を走らせると、小僧どもが地に伏せていた。重いものにでものし掛かられているように。
 それにすら気がつかなかった。
 この、俺が。上弦の参たる鬼が、戦いの中にあって、木っ端といえど敵の動きを知覚できなかった。

 吹き飛ばされた腕が目の前に落ちた。
 どうしてかぼんやりと、ああ、避けきれていなかったのだなと思う。

「さて挨拶は、この程度でよろしいか。上弦の参」

 強烈な呼吸音に掻き消されることなく、その声は俺を睨み付ける。弓を射るような鋭さであった。

 赤鬼のようである。洋装の女は、夜の闇にあって切り裂くように鮮やかだった。徹底した無表情。作業じみた無関心は、明らかに、俺を遥か下方に見る態度であった。


 誰だ、と、思う。

 この女は誰だ。
 一部の隙も恐怖もなく、俺を見下すこの女は、誰だ。

 先刻までとはまるで──否、否、否!まるきり別人だ!ここまでの力を隠せるはずがない!
 そもそも呼吸はどうした。ごうごうと吹き荒ぶようなその音に、俺が気づかないはずがない。常中は?それすらできないとして、そんな基礎さえなっていないとして、それなら、この強さはなんだと言うんだ。

 ──……忘れていたと。そう言ったのか?

「名乗りは不要なのだろう? 無礼無作法も構うまい。お互い好きにやろう。もちろんこの誘いにさえ、貴様が応じる道理はない」

 なにを。……呼吸を?
 お前は、まさか、呼吸もなしに俺と杏寿郎を止めたのか。
 ただの女としての力で。一本の刀で?

「煉獄を殺すが先だというのなら、そうするがいい」

 技術と、胆力。
 それさえあれば、確かに、叶う。けれどそれは、そんなものは、あまりに

私に背を向けてみろ(・・・・・・・・・)


 ──できるわけが、ない。



 

ゝ→←ゝ



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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