【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ22)

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1人でそんなことを考えていたからか伏見の姿が見えない。1人取り残されると不安になる。帰ることが出来ないような気さえしてくる。

幻想を見ているのか、私の足元には黄金色の毛並みを持った2匹の狐がいた

「これ、遊ばない」

聞き覚えのある声が2匹の行動を制した

狐に騙されている。それを実感する日が来るなんて思いもしなかったが、最初に見た石像に色がついて見えた時から既に現実は見えていなかったのだろうか

下げていた目線を上にあげ、驚愕した

沈み掛けの太陽に照らされ輝いて見えるのは人間の頭にあるはずのない2匹の狐と同じような色をした獣耳と風と戯れるように動く尾

それは紛れもなく伏見ガクのものであり、彼は人間であったはず

不思議と怖いと言う感情は起きず、寧ろ興味が引き出された

彼に恋心を抱いてしまっていたことが良くなかったのかもしれない

だから彼が2匹の狐を連れて近づいてくることに何の抵抗もなかった

「特に驚くこともないんすね。大神様に会わせようと思ったっすけどいらないらしいです。さようなら」

狐のふわふわとした黄金色の毛が目の前に広がった

その奥に見えた伏見の顔はいつも制服を着て学校に通っている時からは想像できないほど冷たく、近寄り難い表情だった

気づくとさっきの階段前にいた。隣に伏見ガクの姿はない

その事にほっと胸をなで下ろしてしまったのは不可抗力だろう

サワサワと足元の草がどこからか吹いてきた風に揺らされている

ずっと遠くの方から私の行動を見張るような視線を感じた

振り返ったらもう二度と普通の生活に戻ることができないような気がして、出来るだけ早く足を前に出す

息を切らしながら表通りに無事に辿り着いた

スマホを取り出し前髪を整える

あれ？

後ろに続く道の先にはただ田畑が広がるばかりで見晴らしが良く、竹林など存在していなかった

すぐ近くにある信号がちょうど青になりそうだったから、そこで渡ってしまおうと足を止める

「Aちゃん」

後ろから声をかけられた

疑うこともなく声の主の顔を見る

着物を着て狐のお面をつけた"誰か"の後ろには見覚えのありすぎる朱色の鳥居が幾つも続いていた。