【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ3)

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「うん。大切な話」

「なに？」

「なんだと思う？」

「分からないよ」

「そりゃそうだよ分かられてたら元も子もないでしょ」

今の言葉のどこが面白かったのか、先輩は笑いを交えながら答えてくれた

それは疑問に対する返事ではなかったのだけど

じゃあ早く教えてよと次の言葉を急かすも上手くかわされてしまうのはいつまで経っても変わらない

先輩はその話をする気はなさそうだったから、この歌がおすすめだとか昨日友達が先生に怒られていただとか、そういう話をして、いつも通りの時間を過ごした

途中、少し先にある自動販売機でホットココアを買って、そしてまた話をする

いくら学校が終わってすぐに会ったとしても、冬の空は早い時間に茜色に染まっていく

今日だけが例外であるはずもなく、先輩の言葉を急かすように、輝く茜色が私たちを照らしていた

「先輩？そろそろ電車の時間になるよ？」

「ねぇA、前みたいに名前で呼んでくれないの？」

「そうやってまたはぐらかす。良くないですよ」

「呼んでよ。叶って」

先輩の言う昔は中学生の頃の話

高校になってからは”先輩”と呼び、無意識に距離をとっていた

「だって先輩、ほかの女の子たちから叶って呼ばれるの嫌そうにしてたから」

「Aは特別だって、分かってるでしょ？」

いつもの揶揄うような口調では無い、真剣な表情で言われたら何も反抗できない

まるで先輩の彼女になれたかのような錯覚に陥るから嫌だったのに、私にはもう彼氏がいるのに

先輩にも彼女、いるでしょ？

私だけが特別みたいな言い方しないで、先輩の隣に立ちたくなるから

ずっとお互いにいい相談相手だったのに

彼女さんと上手くいってたよね？私もそれなりに彼と仲良くしてたよ

だから奪わないで、この関係を

昔先輩に向けたこの感情を呼び起こさせないで

それ以上言葉を紡がないで

聞いたらもう、戻れない気がした

それでも、聞きたかった

だって叶くんの話だから

「それで、大切な話ってなんなの。」

叶くんからのお願いを断れないのを自分でも知っていた

前にどれだけ辛いことがあったのかも覚えていた

もう辺りは真っ暗で、街灯と民家の明かりだけが公園を淡く照らしているだけ

先輩は隣に座っていた私の耳元で呟く

「A、また僕のこと、好きになってよ」