太宰治の妹ですが何か？《弐》

桜の花弁が88枚 ページ38

［side 森鴎外］


ぐいっ


中島｢ぐえっ｣

森｢駄目だよ少年。敵はあっちだ。｣


ゴチンッと頭から転げる少年。
……御免ね。



森｢この場合(ケエス)での逃亡はお勧めしない。その……高が街医者の言葉を信じて貰えるならばだが。｣

中島｢…？｣

森｢彼女の言葉を信じるなら、そのドアから逃げれば君は記憶を失う。敵の手管(てくだ)も捕らえられた仲間の危機も忘れ、敵は進撃を続ける。｣


そう云うとハッ、とした顔になる少年。


森｢佳(よ)い事を教えよう。｣


スっ、と黄色の飾紐(リボン)を差し出す。


森｢戦戯(ゲエム)理論研究では危害を加えてきた敵には徹底反撃を行うのが論理最適解とされている。二度と反逆されぬよう此所(ここ)で徹底的に叩くのだ。｣


あの子達みたいにね(・・・・・・・・・)。


中島｢でも方法が｣

森｢絶対に敗(ま)けぬと高を括る敵ほど容易い相手はないよ。
抑(そもそ)も──

先程聞いた所ではあの室(へや)に居る彼等は
君が囚われた時、必死に助けたと云う話では
なかったかね？｣


少年は覚悟を決めた目で私を見て、飾紐(リボン)を取る。


モンゴメリ｢お話は終わり？やる気は戻ったかしら。
そうでなくちゃ面白くないわ。

──でも終わりよ。｣


下からもう一体のアンが出てきて少年を
捕まえてしまった。

そして少年もまた、あの部屋に閉じ込められた。



モンゴメリ｢はい、おしまーい★｣


くるり、とこちらを向くモンゴメリくん。



モンゴメリ｢それでおじさまはどうなさるの？｣

森｢……｣

モンゴメリ｢おじさまの言葉のおかげで虎の彼に
逃げられずにすんだわ。だから感謝の印に見逃してあげてもいいわよ。どうせ捕まえる指示のない
こきたない中年一人見逃したってフィッツジェラルドさんは怒ったりしないもの。それとも───

おじさまがアンに捕まった時の絶望した顔を
見てみようかしら｣


背後(うしろ)に気配があるのを確認し、私は彼女にこう云う。



森｢試すかね？｣


少し殺気を出すだけで産まれたての子鹿の様に
震える彼女。


森｢無理だな。何故なら君は既に敗けている。
───見るといい。｣


スっ、と少年が閉じ込められたドアを指差す。



そこにはギリギリで扉に掴まっている
少年の姿があった。

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