【WT】硝子の靴は捨てた (ページ29)

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シンデレラページ29

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本部から遠征部隊が数部隊決まったのは冬に入った頃だ。前回の遠征の件があって忍田と林藤が蓮月を遠征部隊から外そうとしたが、蓮月が泣く(嘘)と渋々遠征部隊に入れた。ラッキー。

「遠征行くの？」

と思っているのは蓮月だけ。遠征に行くと知った迅は毎晩蓮月の部屋にやって来ては遠征行くのかと聞いてくる。

「行くから迅くん諦めな？」
「諦めない」
「今の往生際の悪さは太刀川さんと並んでるからね」

溜息を吐いて迅の膝の上に寝転んだ。猫の頭を撫でるように迅は蓮月の頭を撫でる。「Aが居なくなる方が嫌だから」

「また死ぬの私？」
「太刀川さんや風間さんいるから死にはしないけど怪我はする」
「なーんだ。それぐらいか」
「それぐらいって……。もうちょっと自分のこと大切にして？」

迅は困ったように笑う。
そっくりその言葉を返したい。林藤や忍田と裏で色々動いているのは知っている。薄らとある目の下の隈が何よりも証拠だ。

「これ以上遠征で人死ぬのは嫌なの」

だけど、それは言わない。言ったところでこの男が止めるはずがないのだから。ならば自分も遠征に行くことは止める理由がない。。

「私が行って救けられるなら、そっちの方が100倍幸せじゃん」

蓮月にとって遠征に行くことは、迅と同じく人を救うために行くようなものだから。

▼▽▼

「A！」

ヨタヨタと歩く小さな子ども。
参考書から顔を上げると、玉狛第一お子さま隊員陽太郎が立っていた。

「陽太郎どうしたの。もうお子さまは寝る時間だよ」
「これを読んでくれ」

陽太郎の手には1冊の絵本。『シンデレラ』だった。男の子が選ぶ内容じゃなくて驚いた。

「もっと他の本あったでしょ」
「小南せれくとだ。他にもしらゆきひめやにんぎょひめ、らぷんつぇるがある」
「なるほど」

桐絵セレクトならロマンチックな話になるか。私は椅子から降り、陽太郎を抱きかかえてソファーの上に座る。抱くと子ども体温は暖かくて、久しぶりに眠れそうな予感。

「あるお屋敷にはシンデレラと継母とその娘たちが住んでました」
　

童話を聞かせると、陽太郎は真剣に話を聞く。蓮月は何とか睡魔に耐えながらも話を終えた後陽太郎に訊かれた。

「これは幸せなのか？」
「シンデレラは王子様に見つけてもらえて幸せだよ」
「周りの人が不幸なのに？」
「シンデレラが幸せになる為の必要な犠牲ってやつー」

ぬいぐるみみたいに陽太郎に抱きつき、蓮月は眠りに落ちた。