【WT】硝子の靴は捨てた (ページ27)

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ラウンジ内で勉強をしていると声を掛けられた。顔を上げると見覚えのある顔だった。
うーんと唸りながら思い出そうとしていると「忘れたの？」と目の前の人物は笑った。

「犬飼、澄晴」
「あ～ッ！」

思い出した。昔、私の家の近くに住んでいた澄晴くんだ。確か、私が小学校3年生に上がる前に隣の市に澄晴くん家が引っ越した。それ以来会っていないから7年は会っていない。

「澄晴くんもボーダー入ったの？」
「うん。で、今は二宮隊にいる」
「二宮隊……。て事は、鳩原先輩と一緒の部隊(チーム)じゃん」
「うん。鳩原からAの話聞いてるよ」
「どんな話？」
「呑み込み早くてびっくりするって」
「それは鳩原先輩の教え方が上手いだけだよ」

笑いながら答えると澄晴くんは私の前の席に座る。机に散らばった参考書を見て、「六頴館受けんの？」と訊かれたので頷いた。

「大学進学考えたら六頴館高等学校(ここ)の方が良いって先生に言われたから」
「なるほど。ちなみに俺も六頴館で辻ちゃんも受けるって言ってたなぁ」
「ツジちゃん？」

新しい人が出てきた。私が遠征行っている間に人が増えすぎなんだよね。誰だ？と首を傾げると「後ろにいる」って言うから振り返った。

「……鳩原先輩の後ろに隠れてる人？」
「そ」

鳩原先輩が笑ってこっちを手を振ってくれるから振り返す。だが、その後ろに男の人が隠れているのは何とも奇妙なものだ。

「二宮隊の攻撃手(アタッカー)の辻ちゃん。Aと二宮さんの個人(ソロ)ランク戦見て惚れたって」
「ほっ、惚れた……？」
「戦い方にね」
「澄晴くん紛らわしい言い方駄目」
「ははは、ごめんごめん。で、辻ちゃんがAに弟子入りしたいんだって」

弟子入りか。
私は視野を鳩原先輩の方まで広げた。鳩原先輩とは喋れているっぽいけど、私との会話どころか顔を合わすのも難しそう。しかも攻撃手(アタッカー)の弟子入りで来るとは。

「悪いんだけど、今は狙撃手(スナイパー)で手が一杯だから弟子入りは他の人に頼んで。個人(ソロ)ランク戦ぐらいなら付き合うから」
「わかった。辻ちゃんに伝えとくよ」

ピコンと通知音が鳴る。携帯を確認すると、次の遠征の話で忍田さんから呼び出された。机に散らばった教科書やノートを鞄に仕舞って澄晴くんに「用が出来たから行くね」と伝えて離れた。