2人だけの旅行は ページ11
窓を開けるとまだ2月なのに春の匂いがした。
夏が来る前にツアーの広告は作成し終えないとシーズンが過ぎてしまう。
昨日は全然眠れなかった。
だって今日から、私は沖縄へ出張に行くから。
それもあの人と一緒に。
打ち合わせを何回か重ねたけれど、お互いの距離が近くなることも遠くなることもなかった。
『俺を好きになったこと、忘れろよ?笑』
そう言われた日から、車椅子の彼は平然と、でも昔と変わらず陽気な性格で、私との打ち合わせをしていた。
『後はどこへ行こうか?』
楽しそうにそんな話をしてくるから、仕事の話をしているのに、何故か楽しい旅行計画のことだと錯覚してしまう。
カメラマンと旅行会社の担当。
たったそれだけなのに、私には思い出される記憶が多すぎる。
彼は違うのだろうか──
空港へ行くと、宏は先に着いてカウンターで何かしら話していた。
近づいてみると何やら飛行機搭乗にあたって、障害者スペースなどについて相談していた。
〈お連れ様はいらっしゃいますか?〉
「はい、私です。車椅子、私が押します」
『A、』
「おはようございます、心配しないで私が着いてるから笑」
『じゃ、すいません。彼女いるんでやっぱ大丈夫です笑』
彼女、というワードに恥ずかしくもドキッとしてしまう自分がいる。
こんなことで3日間もやって行けるのかな、私。
『ほら、行くぞー』
「うん。あ、押すよ、」
『悪ぃ、さんきゅ』
再開した時から気になってた。
宏、色んな人に謝ってばっか。
何も悪くないのに、すみませんって頭下げて。
『2人で遠出すんの初めてじゃない?』
「えっ?、、あ、そうだっけ?」
違う。
本当は高校卒業前に1回だけ、長野にスノボをしに行った。
4時間半かけて高速バスに乗って、彼はスノボ経験ゼロの私を無理やり連れ出した。
彼が、女子の私より可愛いピンクのウェアを来て更衣室から出てきた時はびっくりした。
「ちょっと派手すぎない?」と言うと、
『この方が雪ん中で俺のこと見つけやすいだろ?笑』
って笑ってたっけ。
だけど、このことを宏は忘れちゃってるんだ。
一時的でも、一瞬の思い出でも彼の中から消されてしまっていることに少し、悲しくなった。
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作者名:ユナ | 作成日時:2019年12月10日 10時