ダールベルグデージー6【ars/K.N】 (ページ32)

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「Aの好きな方でいいよ？」

黙ってる私に、優しくそう言ってくれるから

『私が行く……だから待ってて』

「じゃあ、部屋、チェックアウトしといで？一緒に帰ろ？」

『はい……』

素直に返事をした後、電話を切って鞄にしまって、荷物をまとめる。

そしたら、さっきよりかずくんに会いたい気持ちが急加速する。

嬉しくて、緊張して、暴れるように心臓が動き出す。

それを誤魔化すように、とにかく急いだ。

言われた通りチェックアウトを済ませて、かずくんの車の窓をコンコンっとノックしてから後部座席に乗り込む。

バックミラーからだけど、久しぶりに見るかずくんを見たらドキドキして

心の中で大好きって思ったら、今度は心臓がトクンって小さく切なく跳ねた。

かずくんに会えたのが嬉しくて、でも怖くて、何も言えなくて俯いてたら

「A？ごめんね。怒ったりして」

チラッとこっちを見てから、車を発進させて、私の好きな優しい声で話しかけてくれた。

『ううん。私こそ、ごめん。曖昧に答えちゃって……最低だよね』

「急に結婚なんて話になったからびっくりしたんでしょ？」

『……ん。ちょっとだけ、ね』

「そうだよね、ごめんね」

『……うん』

「もうほんとに怒ってないから。Aの思ってること、聞かせて？」

私が後部座席に座ってるから、顔も見えない、お互いの声と車の走る音しかしない、狭くて、暗い空間。

だから、今なら何でも素直に言える気がした。

『あのね？』

「うん、なぁに？」

ちゃんと私の気持ちがかずくんに伝わりますようにって、丁寧に少しずつ言葉にする。

『かずくんとの未来のこと考えなかったわけじゃないの。でも怖くて明確なことは考えられなかった。ていうか、考えちゃいけないって思った』

「どうして？」

かずくんは運転してるから、視線は合わないだろうと思って

バックミラーに映る、かずくんの横顔に話しかける。

『私とかずくんじゃ、背負ってるものが想像出来ないほど違いすぎるし、結婚したいからするなんて、できる職業じゃないから……。ファンの人も泣いちゃうだろうなって。ファンの人がいての職業なのに、私のせいで迷惑かけて、かずくんの大好きなお仕事が無くなっちゃうかもって。だから怖かった』

そう言うと、突然バックミラー越しに一瞬だけかずくんと目があって、ドキッとした。