ヒメユリコンペティション【ars/K.N&S.S】 (ページ49)

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和「良かった。じゃあ、とりあえずA先生に好かれたいんで、ビール行きましょ」

『……強引ですねぇ』

和「好きな女性には、とことん行くタイプなんで」

『その目、すっごい下心丸出しって気付いてます？(笑)』

和「好きな相手を誘うのに、下心が全くない奴なんて、逆に変態でしょ」

『まぁ……。分からなくもないです』

そう答えるから乗り気ではないけど、どうやら俺と飲みに行ってくれるらしく

酔ったらごめんなさいね？と、悪戯な瞳で言った。

その瞳、最高かよ。

『お腹減った。ビール。禁断症状出そうです』

和「そんなにですか？(笑)」

備品チェックを終えて、今日は車じゃないらしく、学校の最寄り駅まで並んで歩く。

日が短くなってきているのか、空はすっかり真っ黒になっていた。

ちらほらとある街灯に差し掛かるたび、長く伸びた2人の影がくっきりと見える。

『そんなに。たまにめちゃくちゃに飲んで食べたい時ありません？』

和「あるけど。意外だなぁ。A先生は静かに飲んでる感じ」

『いやいや。飲みませんよぉ。でも落ち着いて飲みたい時があるのも確かですが』

和「でも今日はそんな気分ではないと」

『はい』

和「んじゃ、どこ行きます？」

頭ん中であれこれ候補を考えていたけど、一応聞いてみる。

『んー。私の家から近くて、いつも行くところでいいですか？』

和「寧ろそっちがいいです。もっとA先生のことが知れそうで」

『知りたすぎ(笑)』

和「教えろよぉ(笑)」

『んっふふ。おっかしー』

いいテンポで会話をしながら

時間通りに来た電車に乗り込んで、目的地まで揺られる。

長いシートに、ほんの少しだけ距離を開けて横に並んで座っていて

目の前には誰もいないから、窓にそんな微妙な関係の俺たちが映っている。

横並びだからか、なかなか交わらない視線。

膝の上に置かれた少し大きめのカバンを抱えているA先生。

窓越しに見るA先生は、時々遠くを見つめて、ぼんやりしていた。

駅から少し歩いてここですと案内されたところは

決して綺麗な外観とは言えなくて

昔からあるような狭い居酒屋。

暖簾を潜り、ガラガラと音を立てて戸を開けると

店内はタバコや料理の匂いが充満している。