ヒメユリコンペティション【ars/K.N&S.S】 (ページ8)

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実は誘ったのは初めてじゃない。

夜の街の見回り後や、残業後に誘ったことはある。

が……なかなか縦に首を振ってもらえなかった。

多分相手がいたか、シンプルに嫌だったか、忙しかったか……。

どれにしたって怖くて聞けなかった。

でも、今年の櫻井は違う。

イケイケどんどんなのだ。

だからここで折れるわけにはいかない。

翔「毎日1人じゃ味気ないですし、僕の気が済まないので、ご飯、食べに連れて行かせてください！」

勢いよく頭を下げた俺の上から、可愛らしい笑いを漏らす。

『ふふふ。じゃあ時間がある時にでも』

どうせ断られると思ってたのに？！

いや、これも厳密に言えばやんわり断られてるんだが、今までよりずっと前向きな返事だぞ！

おい、マジか！

今年の櫻井イケるぞ！？

翔「やった！じゃあ今日は？」

『急ですねー。嬉しいですが、今日はちょっと……。また誘ってください』

俺からの急な誘いに、いつもと同じ苦笑いで断られた。

翔「ですよねー。嬉しくてつい」

『まずは練習しましょう。ね？』

翔「はい」

タイミング間違えていきなり前のめりすぎた！！

落ち着け、櫻井翔！！

せっかくのチャンスを己の抑えきれぬ欲望でダメにしてしまうのは避けろ！！

やっとうまくいきそうなチャンスだぞ！！

この距離を物理的、精神的にもゆっくり縮めていくのが先決だ。

焦るな、耐えろ！

どうやら英語の櫻井先生がA先生に教えてもらってるようだった。

辿々しいメロディーはよく聴くと、多分ラブソングで

俺の予想は、誰かに頼まれて弾かないといけなくって、練習に付き合ってもらってるか

シンプルに弾けるようになりたいかのどちらかだろうと思った。

和「しかし、校内でいちゃつくなよなー」

顔を寄せ合って、微笑みあって？

俺がルール破ってタバコ吸ってるより見苦しいわ。

家でやれよ。

いい大人のいちゃつきと、下手くそなピアノのせいで軽くイラついてきた俺。

和「あー。うざ」

そもそも下手なピアノをおおらかな気持ちで聞けるほど、俺は出来た大人じゃない。

かなり耳障りなBGMで明日の授業の準備をしていたら

和「……最初からこれが聞きたかったわ」

櫻井先生が弾いていた曲を、A先生が弾いているのが聞こえてきた。

俺が思った通りラブソングで結婚式で流しそうな曲。

きっと弾けるとこんな感じ！っていう見本だと思う。