鈴蘭の咲く頃8【ars/S.S】 (ページ9)

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ドアに凭れてる私を気遣って、カズマくんが向かい合わせに立ってくれて

壁に手をついて盾になって、少し空間を作ってくれる。

カ「ねぇ、Aと2人で電車に乗るの初めてじゃね？」

『ね、いつもリュウくんいるもんね。最近彼女と別れたーって嘆いてたけど』

カ「なぁ(笑)顔はいいんだけど、中身がクソ真面目だからなかなかうまくいかねぇんだな、ありゃ。俺も人のこと言えねぇけど」

『ゲームしすぎなんだよ、カズマくんは』

カ「彼女いなくても生きていけるけど、ゲームなくなったら死ぬわ。だって身体の一部だもん」

『んふふ、カズマくん結婚出来なさそうだよね。あと恋愛も不適合者』

カ「はぁ？相変わらず可愛い顔して言うなぁ(笑)まぁ、まだ結婚したくねぇし、あながち間違ってはないな」

はっはっはって小さく乾いた笑いを漏らすカズマくん。

その笑い方が、さっき聞いたばっかりの翔くんの笑い声にリンクして、胸が少し締め付けられて、息が震えた。

カ「……ねぇ、A？今の顔。息子に見せちゃダメだよ？」

『えっ？何で？』

カ「今の顔、すごく寂しそうで、好きな子だったら抱きしめたくなる。そんな顔、俺はさせないのに、Aを置いて自分の都合でアメリカになんか行かないで、ずっと側にいてやるのにって」

真剣な顔で私を見下ろすカズマくんは、すごく大人の男の人って感じで不覚にもドキッとした。

カ「先生に……さ。もしだよ？もし、Aが捨てられちゃったら……」

小さな消え入りそうな声で、何を言ってるのかわからなくて聞きなおそうと思ったら

次は～○○～○○～！

車内のアナウンスと線路を走る音、金属音でかき消されて

『なぁに？』

って改めて聞き直したら

カ「いーや、何でもない！気を付けて帰れよって。あと、息子にも要注意！な？」

『うん！カズマくんも気を付けて帰ってね？またみんなでご飯いこ？』

カ「おぉ！じゃあまた連絡するわ！先生伝いで(笑)」

『うん(笑)』

今度こそ降りたい駅に降りて、カズマくんに手を振って別れた。

夏の匂いがする風を、自転車に乗って全身で感じながら

耳の奥に残ってる翔くんの声を鼓膜に反響させて家に帰る。

だけど、まだ子どもの私には分からなかった。

澤田先生が何を考えているのか。

きっと大人の翔くんだったら予測できたのかな。

ねぇ、翔くん。