鈴蘭の咲く頃8【ars/S.S】 (ページ6)

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小声で先生にお礼を言って、手を離そうと腕に力を入れるのに

『ありがとうございます。でも、先生、そろそろ離してください』

澤「Aさんの手、すげぇ小さいね。可愛い」

『やめてくださいっ……！』

さっきから澤田先生の手を剥がそうとするのに、そうすればするほど、先生の手の力も強くなって

『困りますっ！返してくださいっ！』

窓際にさらに押しやられて、先生と、ドアにはさまれて、隙間がなくなった。

電車の中で人がたくさん居る空間なのに2人だけの世界にされた気がして吐き気がして、背筋がゾクゾクする。

澤「じゃあさ、ごはん、付き合ってよ。1回だけでいいから。携帯のお礼ってことでさ。だめかな？」

携帯ごと私の手を持っている方の手を、ドアに押さえつけて離してくれない。

澤「約束してくれたら、携帯返してあげる」

わざと顔を近づけて、真剣な顔と声で私を捕まえる。

卑怯なやり方……。

こういう人、大っ嫌い。

『じゃあ、携帯、返して頂かなくて結構です。澤田先生が持っててください。澤田先生がいらなくなったら私に返してください』

当たり前だけどほんとは、今すぐ返して欲しい。

けど、澤田先生とご飯に行かないといけないなら携帯なんて要らない。

私自身行きたくないし、それに翔くんが怒るから。

翔くんに嫌な思いさせるくらいなら携帯なんて必要ない。

その1回の約束で翔くんを傷つけるくらいなら、携帯なんてくれてやる。

そう心で思って、思いっきり澤田先生を睨みつけて、手を引き離そうと、もっともっと腕に力を入れる。

澤「はっはっはっ！そんな睨まないでよ。分かったよ。俺の負け。携帯返してあげる」

まいった、お手上げってわざと両手を上げて、澤田先生からやっと手が離れて、空気に触れた右手から熱が逃げていく。

『ありがとうございます……』

澤「病院で落としてよかったね。道で落としてたら見つかってないよ」

『そうですね、本当に助かりました。先生も、今日は電車で帰られるんですか？』

翔くんには駅に降りたら送ろうと思って、返してもらった携帯を大事に鞄にしまう。

澤「いや、Aさん追いかけてきただけだから」

『あ、そうなんですか。なんか、すみませんでした。お忙しいのに』

澤「じゃあ、本当に申し訳ないって思ってんならさ、携帯のお礼にご飯、付き合ってくれたら嬉しいな？」

『えっ？』

またそれ……本当にしつこすぎる。