鈴蘭の咲く頃8【ars/S.S】 (ページ37)

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「うるせぇ……(笑)」

『邪魔されちゃったぁ。誰かな？』

静かな部屋に、ブーブー鳴り響くスマホの画面を2人で見ると

そこに表示された名前に、2人の甘い空気を一瞬で冷たくぴりつかせた。

『澤田先生……なんだろ……』

俺の前だからか、躊躇って出ようとしないA。

「……スピーカーにして出ろ」

『急用じゃないかも知れないし、いい』
「いいから！出ろ」

その電話の主のおかげで俺の声が一段と低く

嫉妬の声に変わったのがAにも伝わったのか

言う通りに震える指で通話ボタンをそっとタップする。

『はい……』

澤《Aさん？今ちょっといい？》

『はい……』

澤《ベビーマッサージの勉強捗ってる？そろそろ筆記試験でしょ？》

『はい。実技の方も秋には』

澤《どっちも一発合格出来そう？》

『頑張ります』

澤《期待してるよ？んでさ、合格したらお祝いで飯行こうよ。ね？それくらいならいいでしょ？》

仕事の内容電話と見せかけて、これが本当の目的だろ。

しかもこの様子だと、にのもAからも最近誘われてないって聞いてたけど、俺らにAが言ってないだけで誘ってるなぁ。

全く……。

断ってるにもかかわらず、しつこいクソ野郎だな。

「ちょっ……んっ！！」

一気に頭に血が上って怒鳴りかけたのを

Aが咄嗟に俺の口に手を押し付けて制止して

ベッドの上に正座して、スピーカーにしたまま、口元にスマホを持って行ってゆっくり話し出す。

『……行きません。別にしていただかなくて結構です』

澤《えー。Aさんのお祝いだよ？行こうよ》

『ですけど、していただかなくていいですから。それにまだヨガの方もありますし……』

澤《じゃあ、ヨガ終わったら……》

「おい！しつこいぞ！！」
『ちょっと、翔くん！！』

たまらずベッドの上にあぐらをかいて、Aの手の中のスマホに向かって大声を出す。

「しつこい男はみっともないと思いませんか？」

俺のイラついた声に、息子も不機嫌な声に変わる。

澤《どちら様ですか？》

Aからスマホを取り上げて、スピーカーもやめて、俺の耳元に当てる。

「Aの婚約者ですけど。だから先生。誘うのやめてくれませんかねぇ？」

澤《あぁ、可愛い彼女を日本に置いてきぼりにして、アメリカでよろしくやってる彼氏さんですか。初めまして。Aさんの勤め先の院長の澤田です》