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その後、手当を行いながら、赤桜から痕が付けられるまでの経緯を聞いた。
思えば、昨夜、彼等は大地主の娘の対応を行なう為、その他の業務は全て私がキャンセルしていた筈だった。
けれど、別の禿が間違えて赤桜の予定のみ入れてしまったらしく、内緒で対応していたのだそう。
その客が自分本意で多々 掟を破ったそうなので、次回訪れた際には出入り禁止を言い渡すようにすることを赤桜には伝えた。
「でも我慢すれば毎回Aからの痕貰えるやろ?そしたら別に頑張ってもええんやけどなぁ…。」
「あれだけ嫌だ嫌だと喚いていたのですから、当然です。そしてそういう事を目的で仕事を頑張るのだとしたら、もう一生しません。」
「えぇ?!嫌やぁ!Aのケチ!」
「何とでも仰って下さい。」
茶碗を重ね、席を立つ。
本来なら、ここから洗濯やら打掛けの整理やらの仕事が溜まりに溜まっているので、そちらを行いたいところだが、絶対安静と言われてしまった以上、早いところ床に戻らなければならない。
見つかると面倒臭い。
「A。」
振り向き様に手を引かれる。
" あ、これは。"って思う間も無く、彼の腕の中へすっぽりと収まった。
そして、項にぴりりとした一瞬の痛み。
「花に意味があるように、華にも意味があるんやで。」
「勉強不足でした。調べておきます。」
「…そうやってずっと僕のことだけ考えとって。一瞬も僕の事を忘れないで。僕と同じ恋を患って。」
とぷとぷと耳に注ぎ込まれる言葉は、まるで洗脳だ。
脳に、直接 蜂蜜をかけられているみたいだ。
いや、むしろ脳が蜂蜜のようにどろどろになってしまっているのかも。
どろどろと思考を甘ったるく溶かしていく。
この雰囲気はまずい気がする。
「…赤桜。そろそろ。」
「そう、やね。」
昼見世の時間が迫っている事に気が付いたのか、案外素直に身体を離してくれた。
「…簪がずれておりますよ。」
基本的に赤桜は、昼見世を一番多くこなしている。
理由として、他の3人と違い、1番身なりが花魁なのは彼だからだ。
彼は簪を付けるのも苦ではないらしく、むしろ可愛いから付けてくれと言ってくる位、協力的だ。
彼等それぞれに良い所があり、悪い所がある。
その悪い所をどう切り取って、良い所だけを魅せるか。
花魁1人1人に合った魅せ方をしなければならない。
ただ、情事に関しては花魁に任せきりなので、私にはよく分からない。
何なら分かりたくはないのだが。
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ちょこ2(パソコン変わりました≪元ID 5ad0b4ef6a≫)) - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみにまってます!(´;ω;`) (10月3日 23時) (レス) @page43 id: c7ac99c812 (このIDを非表示/違反報告)
はおと(プロフ) - おっもしろいな〜!!!!! (2021年9月28日 15時) (レス) @page36 id: 36f12069ba (このIDを非表示/違反報告)
Haoto(プロフ) - すごく続きが気になる終わりかただ~…。面白いので、更新、できたらで良いので書いてもらえたらすごく嬉しいです…!! (2021年8月30日 3時) (レス) id: e9d14425e3 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - 応援してます!頑張ってください! (2021年8月14日 14時) (レス) id: 5ba492e76b (このIDを非表示/違反報告)
しろ時雨(プロフ) - 主人公がかっこいい!憧れます! (2021年8月10日 8時) (レス) id: b4c51071c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雫月 彗 | 作成日時:2019年12月29日 19時