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とん、とん、と自分の体を揺らす振動で目が覚める。嗅ぎなれたオイルの匂いと、シトラスみたいな香水が鼻腔を刺激した。

｢あ、Aちゃん起きた。ごめん全然起きないから俺の家連れてきちゃった。今から自分の家帰る？｣

目を開けた先には酒井さんの顔がすぐ近くにある。わけも分からず、ぼやっとした頭のまま首を横に振る。

肩と膝裏に感じる腕、あれもしかしてお姫様抱っこってやつ？

｢俺にされるの嫌かもだけどちょっとだけ我慢してなー。
また階段あるから落ちないように捕まっときな。｣

アルコールから覚めた2割くらいの脳みそが状況を整理する。お姫様抱っこで酒井さんの家？え？？

みみが熱くなって、触れられてる肩と膝裏が熱くて、彼の体に触れる体の側面が熱くて、なんか色々限界で、捕まってろって言われたって眼前のオレンジを掴むので精一杯だった。

鍵を開けた酒井さんはもう一度わたしを抱き上げ、
擦り寄ってきた黒い子猫を躱してわたしをベッドに下ろし、そのままどこかへいなくなった。また戻ったかと思うと先程の作業服ではなくTシャツにスウェットを履いて、手には水の入ったグラスを持っている。

｢ほら、これ飲んで寝な。俺あっちのソファで寝るからなんかあったら呼んで。｣

そう言ってサイドテーブルにグラスを置いてわたしの頭を撫でる。かっこいいなぁ………いやいや、

『いや、わたしがソファで寝るんで、！先輩の部屋に泊めてもらう上にベッドで寝るなんて恐れ多いです！！』

たぶん、今日イチ大きな声が出た。

｢いや、いいよ！てか酔ってるやつソファで寝かせる方が危ないから！｣

彼の腕を引っ張るわたしとそれに耐える酒井さん。ついに彼がバランスを崩してわたしに倒れ込む。わたしの顔を避けようとした手は顔の両脇に置かれ、体はわたしを押し倒す形になった。