【男主】人生記【eoh.eoh】

98枚目 ページ5

バレてそうで意外にバレてはいない。
俺の迷子事情など知るよしもなくあろまは飯を頬ぶる。

「夏でも美味しいものあるんだね」
「北海道はいつでもあるぞ」
「へぇ……」

目の前に並べられたおかずを味わうようにちびちび食べるA。
まだ白米に手をつけていない状態だ。

「北海道に住もうかなぁ…」

それはいずれ俺のもとを離れるという意味だ。
確かにずっといるとは思わないが先のことを考えすぎではないだろうか。

「大学こっち受けてね」
「……まあ、Aの道だから」

親ならもっと気の利いたことを言えるのだろうか。
自分の親はどうだっただろう。

「あはは、適当だな」
「えー？普通の言葉だろ」
「そうだね、うん。普通の言葉だ」

心外な、と声をあげれば彼は普通を抱き締めるように言った。
壊れないように、壊さないように。

優しい声で普通を言った。

「お世話になってるね」
「…そうか？」
「俺、赤の他人だよ？」

その溝は埋まらない。
他人同士なのはどんなに時間を過ごしても。
感情をわけあっても埋まらない。

改めて突きつけられる現実。

「……お父さん」
「………」
「って呼ぶね」
「……俺っ？」

ニヤリと笑う彼。

「お父さん」
「ちょ、待って」
「お父さん」
「落ち着けよ」
「お父さん」
「ストーーップ！」

俺が必死に止めると彼はゲラゲラと笑った。
どうやらまたひとつ。

彼の望むものが手に入ったらしい。

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