飲み友達の黒尾鉄朗に今日も口説かれる【黒尾鉄朗】

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『余裕…ないよ。
すごくドキドキしてる』


素直な気持ちを言えば鉄朗がふっと小さく笑ったのが分かる。


「可愛い」と口にした鉄朗はいつものヘラヘラした口ぶりでもなく、その言葉と同時に熱を含んだような視線。




ゆっくりと鉄朗の顔が近付き触れるだけのキス。

大人がするには随分と可愛らしい小さな子供がするような口付け。



額にキスされた時よりも唇の感触がリアルで、その温もりが離されると少しだけ寂しいなんて思ってしまう。



初めてその唇とキスをして、好きという気持ちももっと触れたいという強欲さも、目が合えば愛おしそうな顔をする鉄朗の事を知っているのは私だけであって欲しいという独占欲も全部伝わったらいいのにという思いも込めて、初めて自分から鉄朗の背中に腕を回しぎゅっと抱きしめた。



ここは外だとか雪がはらはらと降っているとかそんな事全て忘れてしまうほど、鉄朗の腕の中は居心地がよくて暖かい。


ぐりぐりとその広く思ったよりも厚い筋肉質で程よく鍛えられたであろう胸に頭を押し付ければ、鉄朗の香水の香りが鼻を掠め肺いっぱいに吸い込む。


あぁ…大好き。

この香りも背中に回されている腕もこの逞しい身体も、低く落ち着きのある声も、どんな時もそばに居てくれる優しさも他愛もないオチのない話しに相槌をうちながら聞いてくれる横顔も、全部が好き。



そう思うのと同時に背中に回された鉄朗の腕に力が込められ、鉄朗の口が動き耳元に息がかかる。


「そんな可愛い事されると、送り狼になりそう…です」



同じようなセリフを前も聞いた事があったような気がした。

ただ、その時はもっとヘラヘラとした口調で冗談交じりに聞こえていた言葉も、今は１ミリも隙間のないくらい強く抱きしめられている状況にそれが冗談だなんて思えるはずもなく、心臓は煩く鳴りベストな返答が思いつかない。

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