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45.切望 ページ46

あたしを見下ろす冷たい瞳。無表情でこちらを見つめる人の姿をした鬼。それはあたしが待望してやまなかった存在であり、憎しみで心まで鬼と化したあたしの存在意義。

「猗窩座」

あたしは鬼の名を呟いた。突然現れた猗窩座は淡々とした口調で言う。

滑稽(こっけい)だな。あれ程までに鬼を殺したお前が、鬼になった隊士に同情し、挙げ句の果て殺し損ね、無様にもここで死ぬのか」

「…………」

「お前の兄は強かったぞ。腕を落とし足を切られ、だが最後の最後まで俺の(くび)を狙っていた」

口角を上げたあたしは「死ぬものか」と返した。猗窩座は表情を変えず口を開く。

「地べたを這う姿を俺に見下ろされ、今にも殺されそうな状況でも強気でいるか」

「…もしあたしがここで死んでも、鬼になりお前を地の果てまで追いかけ殺す」

自分でも物凄い事を口走ったと思ったが、その言葉にフッと笑った猗窩座。チラリと視線を背後にやり彼は呟いた。

「運の良い女」

それだけを言い残した猗窩座は、あたしのことを殺さずにスッと残像のように散った。

「消えた……………」

あたしの声だけが洞窟に響く。今思えば、もしかするとあれは走馬灯のようなものだったのかもしれない。死に間際に求めたものが、家族や友人ではなく追い続けた敵討だなんて、虚しい限りだ。
目を細めたあたしは自分の身体から流れていく血液を眺めた。噛まれた部位からの出血が止まらない。猗窩座の夢を見る程だもの。もう残された時間は短い気がした。頭はボーッとしてきて、体は徐々に冷たくなってくる。腕は青白く、自分の身体が人間味を失っていく。眼を閉じたあたしは空に祈りを捧げた。

「…お願いします神様、あたしを鬼にして。鬼達を、猗窩座を殺すまでまだ死ねない……全て無くなってもいい、きっと見つける。見つけて息の根を止める…………だから嗚呼、未だ死にたくない………」

吐いたはずの言葉は、自分の耳には聞こえなかった。声が出なくなり、耳も使い物にならなくなる。思考は緩やかに停止していき、フワフワした感覚の中であたしは「あかざ」と言葉を発した。でもそれがなんの言語で、どんな言葉の羅列なのかはもう思い出せない。

「鬼になってでも、生きたいの」

どうか、鬼になりたいと願ったあたしをどうか(ゆる)して。あたしは重い(まぶた)をゆっくりと閉じ、愛する家族に向けて呟いた。






***

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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時

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