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33.カラフルと感情 ページ34

薄紅色の髪だった。あたしを見て笑ってた。
あたしはきっとあの男を知ってる。でもどうしても思い出せない。あれは誰だっけ。
あたしにとって、どんな存在だった?




「童磨」

香の匂いが充満した薄暗い部屋で、あたしは静かに彼の名前を呼んだ。部屋の隅にある蝋燭(ろうそく)の火は怪しく揺れるが、こちらを見つめる童磨はいつだって優しく笑う。それが鬼のモノでも良い。恐ろしい夜には飢えが来る。信者達が彼のことを崇める理由がわかる気がした。

「童磨は、信者を食べるの?」

あたしの唐突な質問に彼は一瞬驚いた顔をしたけど、扇子を手に怪し気に微笑む。そしてあたしが聞いたのに「どうして?」と逆に聞き返してきた。

「あたしに食べないのか聞いてくるってことは、童磨も食べるんだと思う…」

そう言うと、彼はスッと目を細めた。大きな椅子に腰掛けて手を顎に添えた童磨。笑った時に口から覗く鋭い犬歯が、やはり彼が正真正銘の鬼だということを思い知らせる。

「鬼は皆、人を喰うさ」

「……猗窩座も?」

「そうだ、猗窩座殿も人間を食べる。まぁ女は食べないんだけどね」

その話はあたしにとって不快だった。童磨は鬼で、猗窩座も鬼。だから人間を喰う、それが信者であろうが自分を慕うものであろうが自然の摂理だと彼は言うのだ。

「でも怖がらないで。君のことは食べない」

「…別にもう怖がってないよ」

「美味しそうな匂いはするんだ、油断すると食べたくなる。きっと稀血だ」

どうやら稀血とは特別な血のことを言うらしい。その血を持ってる人間を喰えば、鬼達は力が湧いてくるのだ。よくある「君ってこんな性格だからこの血液型」なんて勝手に決められるみたく"稀血だ稀血だ"と鬼達から言われるが、あたしが稀血かどうかは食べてみないと分からない。どんな匂いがするのかは知らないが、それっていい迷惑。少しばかり腹が立ってきたあたしだが、隣で余裕そうに微笑む彼。その様子を見て余計にイライラした。

「……鬼って感情とか無さそうだよね」

深い意味はない。これはただ、イマイチ掴めない猗窩座の気持ちや、呑気な童磨に対する八つ当たりに近い嫌味だ。

「ご機嫌ななめだなァ」

扇子を揺らした童磨の眼はカラフルで、多色の瞳がギラリと光りあたしのことを見据える。そして持っていた扇で、あたしの心臓の辺りをトンと軽く押した。あたしは少しばかり彼の動きに警戒する。

「君はどこでものを考える?」

そう聞いてきた童磨からは、感覚がバカになるぐらい色濃い鬼の気配がした。

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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時

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