34.君はきっと泣かない ページ35
「どこでって…」
悩む仕草をしたあたし、彼は重ねるように口を開く。
「なら嬉しい感情はどこで操る?」
「頭じゃないの……」
「そうだ、どちらも頭がこなしてる。それなら嫌なことがあるとどんな行動をする?」
童磨は扇子の先であたしの心臓を軽く突く。
「それって、あたしが泣いたり笑ったりするから鬼にも心があるって言うの?」
そうだと頷く童磨だが、猗窩座はどちらもしない。猗窩座には心がないと言うのか。
「なら童磨は泣くの?」
「鬼の俺だって悲しくなることはあるさ。他の鬼が死ねば辛いし、信者が悲しければ俺も悲しい」
虹色の瞳は怪しげにあたしを捕らえる。あたしは胸に当てられていた扇子を手で払い退けた。
「嘘だね」
彼の目を見てそう言う。すると童磨は眉尻を下げて悲しそうな顔をしてみせた。
「酷い子だな。嘘じゃないよ」
童磨はそう言うが、あたしは譲らない。払い退けられた扇子を近くに置いた彼はニコリと笑って椅子から降りる。笑顔のまま、床に座っていたあたしの前に立った童磨。
「今、俺の考えてることが分かるかい?」
「……そんなものわかるわけない」
頭を左右に振れば、口角を上げた彼の手があたしの首に伸びてきた。咄嗟の出来事に目を丸くしたあたしの喉元に、童磨の冷たい手が当てられる。
「………!」
「俺は君を、今すぐにでも喰ってやりたいなと思ってる」
尖った歯を覗かせた童磨に、心臓がドッドッと不吉な音を立てた。信者達を喰って来たように、あたしのことも食うのか。そう返そうとしたならば、童磨の手がスッとあたしから離れた。
「嘘だよ」
そう言って彼は笑う。
「意地悪を言うから仕返しだ。少し脅かしてやった」
そしてあたしにどんな気持ちになったかと尋ねてくる。それに対してあたしが険しい顔をすれば「君が俺を嫌になるのも、俺が君に意地悪をしたくなるのも、感情がある証拠」だと言うのだ。
「我慢出来ずに君を食べたら俺は無惨様にも、猗窩座殿にも怒られるなぁ。きっと」
「なんで猗窩座が怒るの」
「なぜって、猗窩座殿はAちゃんにこだわってるだろう」
「無惨様にあたしを任されたから、仕方無しにみてるんだよ」
「さぁ、どうだろう」
返事をごまかされた。なんでと尋ねようとしたあたしに彼は微笑む。
「もう落ち着いたかな。そろそろ寝なさい」
「…………」
なんだか腑に落ちない。でも、悪夢の内容は少しばかり忘れかけていた。あたしは童磨の部屋を後にして、またあの部屋へ戻ることにする。深く話し込んでいたらしい、もう外は少しばかり淡い青色で明るかった。
67人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時