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20.もう帰らない ページ21

その後しばらく待ったが、誰一人として帰ってくる気配は無かった。
会えない時ほど恋しくなる。こんなに切ない気持ちになるなら、あの時鬼になることを選ぶべきじゃなかったと感じた。一体あたしは何の為に鬼になったのか。
家族が恋しかった?死ぬには若かった?まだ未練があった?どれも全部当てはまる気がするけど、違うような気もする。

「あたしの物、持って行こうかな…」

あたしはそう呟いて立ち上がる。本当は家族に会いたかったけど、よくよく考えたら死んだはずのあたしが元気にこの家へ帰ってきてるのは変かもしれない。皆を驚かしたい訳では無いし、寂しいけど今回はもう諦めよう。

「着替えと、お金と……」

ブツブツと独り言をボヤきながら、布の鞄に荷物を詰める。お気に入りだった着物を鞄に押し込んだ時、鞄の奥で何やら硬い金属のような物を触った。不思議に思ってそれを取り出す。手に取ったそれは鉄で出来ていて、左右対称になった鉄の中央には長方形の穴が開いている。

(つば)…?」

(つば)とは刀剣の(つか)と刀身との境目に挟み込み、柄を握る手を保護する板だ。
それはそうと、なぜこんなものがあたしの鞄の中に?
裏表で違うデザインが密に施された(つば)を見つめる。さぞ神経質な職人が掘ったのであろう。左右が面白いぐらい対象になっていて、まるでアクセサリーのように綺麗だ。じぃと眺めていれば、不意にこれがお兄ちゃんの物であったことをあたしは思い出す。そしてハッとした。

「鬼殺隊……だった?」

ポツリと呟く。手に持った冷たい(つば)が途端に疑問を確信に変えた。その瞬間、雪崩のように大量の記憶の波が脳内に飛び込んでくる。まるで映画のワンシーンみたく、あたしの頭の中で沢山の映像が流れた。
詰襟によく似た漆黒の隊服。艶やかに光る日本刀と、凛とした藤の家紋。

「そうだ……」

お兄ちゃんは鬼殺隊だった。彼は努力の人だったから、入隊してすぐに柱とかいう強い人達のところに行って、それからはほとんど帰ってこなくなった。
それなら尚更、今の姿をしたあたしに会ったら悲しむだろう。やっぱり会うべきじゃ無い。
あたしは呟いて、(つば)をポケットに押し込む。玄関出て少し歩いたあと、今一度家を振り返った。
もうきっと戻れない。人間だったあたしは死んだのだ。途端に胸の奥が(えぐ)れそうなほど痛くなる。それをグッと堪えて家から目を逸らし、また歩を進めていく。

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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時

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