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13.記憶 ページ14

「おい」

不意に真上から聞こえた声に足を止めた。その低くてハッキリとした声色で猗窩座だとすぐにわかった。気配を探していると、彼が何処からか降ってきて目の前に降り立つ。ふわりと揺れたピンク色の髪。

「…団子屋とやらには行ったのか」

「行ったけど……まさか行きたかったの?」

確認した途端ぎろりと睨まれた。冗談なのにと言った感じで視線を流せば、彼は怪訝な顔であたしを見る。

「なぜ陽の光に当たったのにお前は死なないんだ」

「え?」

「……………」

少しばかり考える仕草をした猗窩座。またあたしを睨む。

「それに、なぜあの男のところにいた」

「…だって、お腹空いてたから」

「ただでさえお前は弱いんだ。そうで無かったとしても鬼を頼るな、借りを作るな」

「弱い弱いって、そればっかり」

「紛れもない事実だ」

猗窩座があまりにも濁りのない瞳でそう言うものだから、もういいやとすぐに諦める。

「行くとこなかったし、童磨が美味しいご飯出してくれたの」

「くだらない。鬼同士で馴れ合うなど」

「…なんで、別にいいじゃん」

「あの男の素性を知らず、もし弱いお前が……」

「はいはい。弱くて殺されちゃうんでしょ!もう行くのやめますよ」

彼へ向けて歯を剥き出しにし、あたしはその隣を過ぎていく。

「おい女、待て」

「待たない」

「俺は無惨様にお前の事を任された。勝手な行動をされると困る」

「さっきは置いてったくせに。てか鬼だったらあたしが何処にいるかぐらい何となくわかるでしょ」

あたしの言葉に彼はぴくりと眉をひそめた。怒ったかと思いきや、そうではないらしく猗窩座は不思議そうな顔であたしに尋ねてくる。

「お前、鬼になる前の記憶があるのか?」

「…え?」

どういう事だと聞こうとしたが、確かに今あたしは何の疑いも無く、鬼達が互いの場所を分かるんじゃないかと当たり前のように口に出した。でもそれはただ、感覚的にそう感じただけだ。

「何となく…分かるのかなと思っただけ」

何かを考え込む彼。あたしの心臓が少しばかり速くなる。

「ねぇ、まさか鬼になる前のあたしを知ってるの?」

なんだか怖くなってそう聞けば、猗窩座は知らないと首を左右に振る。

「とにかくあの男の所にはもう行くな。何か気になる事があるのなら俺に言え」

小さく呟いた猗窩座。もしかするとこの鬼はあたしの何かを知っているんじゃないか?そう思った。
だが真相を知るのは異様に怖くて、あたしはそれ以上何も踏み込めなかった。

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作者名:りん | 作成日時:2020年1月25日 0時

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