夜に紛れる #伊之助 善逸 炭治郎 ページ9
「……帰りたい」
あたしは天井を仰ぎ見て呟く。小さな箱の中、もとい鬼殺隊の屋敷に閉じ込められて早くも十時間は経った。炭治郎達に呼吸の稽古へ行こう!とか誘われて、強くなれるし行く行く!ってご機嫌でついて行ったら「全集中の呼吸はもう出来るよな」とか伊之助に言われたのは随分と前の話。出来ないと返せば、まだまだだなと茶化され、それが悔しくてあれから何度試した?そんなのいちいち数えてない。
初めは調子が良かったけど、それが続くのも一時間まで。全集中なんて意味の分からない状態、もうイかれてるとしか思えない。全集中をしようとすると、耳と肺が痛くなってどうにも堪らなくなる。もはや一言も喋りたく無いぐらい憔悴しきっていて、日常会話すらしたく無かった。それに加えて、夕方から始めたせいか眠たさがジワジワと込み上げてくる。
「……………」
最初は聞くに耐えなかった善逸の悲痛な叫びが、今や妙な子守唄のようなものに変化して頭の中をグルグルとループしてる。徐々に落ちてくる瞼を幾度と無く強引に押し上げていたが、疲労困憊のあたしは睡魔に負けて目を完全に閉じた。
「A」
「…あれ、A?」
「寝てる」
「脱落だな」
微かに聞こえてくる彼等の話し声に「起きてるよ〜」って返そうと思ったけど、そんな気持ちに反して口も目もピクリともしない。
「お手洗い行ってくる」
「俺も」
「そろそろ眠い」
「すぐ戻る」
途切れ途切れの会話が部屋に響く。でもそれが誰なのかは意識が曖昧で分からない。ボヤけた視界の中で二人出て行ったから、一人だけ部屋に居るとか計算をする。誰が残っているんだろう。声が聞こえないから分からない。
「……………」
この様子だともう終わりかな。それならあたしは家に帰ってベッドで寝たい。鬼殺隊の邸は何だか居心地が悪くて好きじゃない。治療室の布団は固いし狭くて寝にくい。部屋の空気も悪いし…と色々考えていれば、ふと瞼の奥の視界が暗くなる。目を瞑っていても変化したことが分かった。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時