02 ページ41
あのあと何事もなく、風呂と食事を終えて部屋へ戻ったあたし達。
「今のところおかしなことはないな」
座布団に腰を下ろした煉獄さんが言う。彼から少し離れた場所に座ったあたしは首を縦に振った。
「鬼の気配もしない。聞くところによると、どうやら毎晩来る訳では無い」
「若い女性ばかりが襲われているらしいので、恐らく鬼は喰う人間を選んでいます」
「…そうか。ならここに現れる可能性もあるな」
「十分あり得ます。あたしが囮になりましょうか」
そう提案すると、彼は眉尻を下げて頭を左右に振った。煉獄さんが動くと、ふんわりと石鹸のような清潔な香りがあたしの鼻腔をくすぐる。
「いや、結構だ。そんなことをさせる為にAを入隊させたのでは無いからな」
どれほどの鬼が出るかも分からない、と付け足した煉獄さん。彼の流れるような視線にあたしの心臓はドクドクと音を立て始める。これはあたしを心配して言ったセリフなのか。そんな風に言われると上司とはまた別に意識してしまう。
「長旅で疲れているだろう。少し休みなさい」
「いえ、柱を差し置いて先にあたしが休むのは変だから…」
「なら交代にするか、君が先に休息を取っておくんだ」
目を細めて微笑んだ煉獄さん。彼が笑うと、あたしの脳は考えることを停止する。潔くわかりましたと返事をしたあたしは、とりあえずどこに布団を敷こうかと部屋を見渡した。部屋の端に寄り過ぎると、なんだか意識し過ぎてる気もするし、だからといって近くに並べるのも女の子としてどうなんだろうと思う。色々悩んで、結局真ん中から少し離れたぐらいの場所に敷くことにした。
「あたしここにします」
「ああ、好きなところで寝なさい」
あたしが深読みしてる間、何やら机に向かって書き物をしていた彼。布団を広げたあたしはまた声をかける。
「煉獄さんはどこにしますか」
「俺は大丈夫だ。疲れていないからな」
「……でも」
「A、明日も早いぞ」
彼の言葉に頷いたあたしは布団に潜り、おやすみなさいと返す。おやすみと煉獄さんが言った。そして静まり返った部屋の中に、彼がペンを進ませる音だけが聞こえる。
「…………………」
布団に入ったは良いものの、彼の気配があるお陰でどう考えても眠れない。背中越しに聞こえるのは紙をめくる音、服の擦れる音、深い呼吸と、もはや体内を巡る血の流れる音まで聞こえてきそう。
73人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時