遊び歩く言う間も無くずっと【鬼滅の刃】 (ページ25)

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ピッタリと閉じられた襖(ふすま)を前にして、いつも通りいつも通り。と心の中でその言葉を呪文のように唱える。何事もなかったように入れば良いと襖に手をかけようとした瞬間「A」と彼の声で名前を呼ばれた。突然の呼びかけに心臓がドッキーンと跳ねる。

ここにいること知ってたのかと少々不満に思いながらも部屋に入ろうとして、ふと足を止める。なんだか中の様子がおかしい。

「A……、A」

あたしの名前を何度も呼ぶ彼。いつもお前とかテメーとかクソとか、名前なんて滅多に口に出さないのに。異変を感じて襖の隙間から、そっと部屋を覗く。

「………！」

中の様子を見たあたしは思わず身体を硬直させた。静寂に包まれた無機質な部屋には不死川さんだけが居る。彼はあたしの羽織を手に持っていた。大事そうに抱えて、白い生地の中に顔を埋めている。

「…………A」

彼の途切れそうな声に、一気に頰が熱くなった。なんだか見てはいけないものを見てしまったような。罪悪感と共に押し寄せてくるのは言い様の無い高揚感。頬どころか耳の端、手指や足の先、体内を巡る血液までも熱を帯びて沸騰したように温度が上昇する。部屋の奥から感じる切羽詰まった吐息と布を擦る音か聞こえて、ズルズルと腰の骨が砕けたようにその場から立てなくなった。
さっき彼に触れられた首筋が脈を打ち、彼が肌に触れた箇所を過剰なまでに意識する。弱そうな声で名前を呼ばれる度に、頭の中が溶けそうになった。不死川さんってあたしのこと。

「……………」

あたしは咄嗟に耳を両手で塞ぐ。これまで何度もあった彼との接触を思い出し、脳内が異様な感覚でおかされていくのがわかった。彼の骨張った手があたしに触り、指がグッと肌に食い込む。あれもこれもあの時も、あたしだけが過剰に意識していたわけじゃなかったのか。そう思うと身体に力が入らなくて立てない。
これからどうすればいい、考えても分からない。もう前のように戻ってと言われても戻れないかもしれない。戻りたく無いと思ってしまうかもしれない。分からない、怖い。
小さく呟いたあたしは、耳を閉じたまま両膝の中に頭を深く埋(うず)めた。